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夜遅くに食べると、なんとなく体に悪い。そんなふうに感じたことはないでしょうか。実はそれ、単なるイメージではないかもしれません。
いま私たちは「どれだけ長く生きるか」だけでなく、「どれだけ健やかに年齢を重ねるか」が問われる時代にいます。そのヒントとして注目されているのが「何を食べるか」に加えて「いつ食べるか」という戦略です。
これまで健康や老化対策の中心は食事の内容でした。野菜を増やす、超加工食品を減らす、たんぱく質を十分にとる。もちろんどれも重要です。しかし最近、もう一つの視点が浮かび上がっています。食べる時間そのものが、体や臓器の老化と深く関わっているのではないか、という視点です。
この視点のもと、中国の福州大学付属省立病院の研究チームは、食事の時間と体の老化の関係を詳しく調べました。その成果は、2026年3月に食品科学専門の専門誌「npj Science of Food」に報告されました(注1)。体全体だけではなく、心臓や肝臓、腎臓といった臓器ごとの老化まで分析した点も注目されています。
時間栄養学という新しい視点
この背景にあるのが「時間栄養学(クロノニュートリション)」という考え方です。食べる内容だけでなく、食べるタイミングと体のリズム(体内時計)、健康や病気を重ねて考える分野です。
これまでの研究でも、朝食を抜く、夜遅く食べるといった習慣が肥満や心血管疾患、メタボのリスクと関連することがわかっていました。また夜勤やシフトワークなどで生活のリズムが乱れる人は、慢性的な病気のリスクが高いことも報告されています。
そこで注目されているのが、時間制限食(TRE)です。たとえば、1日の食事を8時間以内におさめ、残りの時間は食べないという方法。実践すると体重減少や血糖改善、代謝に良い影響があったという結果が報告されています。
ただし研究結果はまだ一貫していません。動物では寿命延長が示唆される一方、人では明らかな効果が確認されていない研究や、心血管リスク上昇との関連が指摘される報告もあります。
つまり、有望ではあるものの、確立された方法とは言えない段階です。
生物学的年齢には効果
ここで鍵になるのが「年齢」の見方です。
私たちが普段使っているのは、カレンダー上の年齢、いわゆる「実年齢」です。しかし同じ50歳でも、若々しい人とそうでない人がいる。この違いを説明するために使われているのが「生物学的年齢」。これは、体がどれくらい老化しているか示す指標です。
この研究では、KDM法(クレメラ・ダウバル法)を用いて生物学的年齢を推定しています。血液検査や身体データをもとに算出され、平均して約3.4年の実年齢とのズレがありました。
=ゲッティ
調査に使われたのは、アメリカの大規模調査データNHANESです。約1万4000人(平均年齢46歳)の食事習慣と、体や臓器の老化の関係が検証されました。
特別な習慣ではありません。私たちが毎日くり返している、ごく日常そのものです。
・朝、最初に食べる時間
・夜、最後に食べる時間
・1日の食事時間の長さ(朝最初に食べてから夜最後に食べるまで)
・空腹の時間(夜最後に食べてから翌朝最初に食べるまで)
さらに研究者らは、人種・性別・病気の有無といった違いも細かく分析。そしてそれが、体や臓器の老化とどう関係するかを検証しました。
夕食、遅くても早くてもリスク
まず明確だったのは、夕食(その日最後の食事)の時間です。
40〜60歳では、午後3〜5時にとる人は、夜9時以降に食べる人と比べて、老化リスクが62%も低いという関連が示されました。また臓器によって最適な時間帯が異なります。
心臓・体全体:午後3〜5時
肝臓:午後5〜7時
なぜ違うのでしょうか。
心臓は夜間に負荷が下がる臓器であり、遅い時間の食事はそのリズムを乱す可能性があります。一方、肝臓は代謝機能を担う臓器ですが、夜間はインスリン感受性が低下するため、遅い食事に必ずしも有利といえません。また、腎臓は、食事の時間の影響は受けにくい傾向があります。
ただし、早ければ早いほどいいという単純な話ではありません。午後3時より前に食事を終えると、心臓や肝臓では逆に老化リスクが高まる関連も示されています。つまり食事の時間には「遅すぎず、早すぎず」というバランスがあるということです。
朝食は代謝のスイッチ
では、朝食(その日最初の食事)はどうでしょう。
40歳未満では大きな差は出にくいものの、昼以降に最初の食事をとる人(つまり朝食抜き)では、肝臓の老化リスクが高い関連が見られました。40〜60歳では、朝食が遅いほど、体や心臓の老化リスクが高い傾向。60歳超では、最初の朝食が正午以降になると、老化のリスクが約2倍になる関連も示されています。
なぜ朝のタイミングがそれほど重要なのでしょうか。
朝は、体の代謝が動き出す時間です。このタイミングの食事は、体内時計と代謝を同期させるスイッチになります。そのため朝に食べることで、全身のリズムと代謝がそろいやすくなるのです。
ダラダラ食べの悪影響
もう一つの核心は「食事時間の長さ」です。この研究では、1日の最初の時間から最後の時間までの食事時間が長いほど、老化のリスクが高い関連が見られました。最後の食事とは、就寝前の最後の食事のことで、夕食後に食べる夜食や、お酒の後の締めのラーメンなどまでの時間です。
特に40〜60歳では次のような結果が示されています。
=ゲッティ
・16時間以上食べている人:老化リスク 約2.5倍
・空腹時間が短い(8時間未満):老化リスク上昇
例えば朝7時に最初の食事をとり、昼食を経て、最後の食事が午後11時ごろまで続く、というように朝から夜遅くまで、ずっと食べ続けている生活は、老化を加速させます。さらに60歳超ではこの影響が腎臓にも表れる傾向がありました。
40歳過ぎると差が出る
年齢によって影響は変わります。
・40歳未満:関連は小さい
・40〜60歳:大きい
・60歳超:さらに大きくなる
これは、年齢を重ねるほど、体が「食べ方の影響を受けやすくなる」ということを意味します。
もう一つ興味深いのは、男女差です。
男性は、「いつ食べるか」というタイミングが、体全体や心臓の老化リスクとより強く関連していました。特に注意したいのは、朝食が遅いパターンです。たとえば、最初の食事が午前9時〜正午になる場合、心臓の老化のリスクが約1.4倍に上昇する関連が見られています。
一方、女性は「食べている時間の長さ」が重要です。たとえば食事時間が長く(16時間以上)、空腹時間が短い(8時間未満)状態では、体や腎臓の老化リスクが約2倍に上昇することが示されました。これは、体が十分に回復する時間を持てないことが関係していると考えられます
もう一つ大切なのは、「自分の状態に合わせること」です。
健康な人は、まずリズムを整えること。
・朝食を遅らせない(特に正午以降は避ける、つまり朝食抜きはしない)
・夕食、夜食は遅くなりすぎない。午後9時まで
完璧である必要はありません。遅すぎないことが重要です。
一方、体に不調がある場合は戦略が変わります。重要なのは体を休ませる時間をしっかり確保することです。
・夕食はやや早めで(午後5〜7時が理想)
・食べない時間をしっかり確保する
これが体の回復に直結します。同じ食事でも体の反応は一様ではないことがわかります。
この研究が示しているのは、シンプルです。食事は「何を・どれだけ・いつ」を切り離して考えられないということです。どれか一つでは不十分なのです。
健康的な食事内容でも時間が乱れていれば効果は十分に発揮されません。内容も時間も悪ければ、体への負担がさらに大きくなります。
ここで重要になるのが「優先順位」です。
食べすぎていない人や、食事の質が良い人では、体内時計が整っているため、朝食が遅れ、夜遅い食事、長時間のダラダラ食べといった習慣が、そのまま老化のリスクとして表れやすくなります。まずは、食事の時間を整えることが重要です。
一方、食べすぎの人や、食事の質が乱れている人は、同じような食べ方でも影響が見えにくくなります。しかしこれは安全という意味ではありません。既にインスリン過剰分泌や慢性的な炎症、脂肪の蓄積といった負担が大きいため、時間の影響が隠れているだけなのです。そのため、まず量や質を整えること。そのうえで時間を整えることが優先順位になります。
そして最終的には、「良い内容×適切な量×正しいタイミング」の三つがそろって、はじめて食事の効果は最大化されます。
老化は「何を・どれだけ・いつ食べるか」という三つの組み合わせと関係している可能性があります。論文ではこれをfood–nutrient–timing synergy(食事×栄養×タイミングの相乗効果)と表現しています。
一つの目安としては、次のようなリズムです。
・朝食:7〜9時
・昼食:12〜13時
・夕食:17〜19時
・食事時間:8〜10時間以内
ただし、この目安は「絶対の正解」ではありません。年齢や性別、健康状態によって、優先すべきポイントが変わります。大切なのは、完璧さではなく方向です。
重要なのは「遅すぎない、ダラダラ食べない、朝を抜かない」、この3点です。それぞれ自分の状況に合わせて、優先順位を見つけて、リズムを整えてください。体は食べたものでできていますが、同時に、食べた時間でもできているのです。
引用文献
注1 Dietary rhythms and biological aging risk across multiple organs
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大西睦子
内科医
おおにし・むつこ 内科医師。東京女子医大卒業後、国立がんセンター、東京大病院などを経て、米ボストンに留学。現在、ナビタスクリニックにて、ボストン発ウェルネス・プログラム担当。