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皆さんには、「わかってはいるけどやめられない」悪習慣、ありませんか? 夜、ベッドに入ってからスマホを開いてしまう。仕事帰りにコンビニで甘いものをつい買ってしまう。お酒を控えようと思ったのに、気がつけばグラスを傾けている。やめたい習慣ほど、なぜか頑固に居座り続けます。
意志の力で勝とうとすると負ける
デューク大学のニールらによれば、私たちの行動の約45パーセントは、考えずにやっている自動運転的習慣です(※1)。新しい習慣を作るのが難しいのと同じ理由で、古い習慣を手放すのも難しいのです。脳の中にできあがった配線は、意志の力では簡単に上書きできません。
そんな悪い習慣の根絶に手を焼いている方々に、ぜひ知っていただきたいことがあります。行動経済学を中心とした研究で、さまざまな悪い習慣を断ち切るための、意志に頼らないやり方がいくつも明らかにされてきました。今回は、その中でも特に効果が確かめられている三つの方法をご紹介します。
方法1 「きっかけ」を物理的に消す
この連載の第1回で、習慣は「きっかけ→行動→ご褒美」の3ステップで動いているという原則をお伝えしました。やめたい習慣にも、必ず引き金になっている「きっかけ」があります。
南カリフォルニア大学のウッドの研究(※2)によると、習慣を変える上で最も効果的な方法のひとつとして、「きっかけの遮断」が挙げられています。きっかけが目に入らなければ、自動運転のスイッチは入らないというわけです。
=ゲッティ
具体例で考えてみると、たとえば、お菓子を食べすぎてしまう人は、ストックを家に置かないだけで消費量が変わります。スマホを手に取りすぎる人は、充電は寝室など別の部屋でするようにする、アプリのアイコンをホーム画面から外すなど、「視界から消す」だけで使用時間が減ります。
また、アムステルダム大学のデッカーとバウムガートナーが行った実験(※3)では、スマートフォンの画面をモノクロ(グレースケール)にしただけで、1日のスクリーンタイムが平均20分減ったそうです。「画面が地味になる」というささやかな摩擦で、無意識に手を伸ばす回数が減るのです。カラー画面は、人間にとっては「刺激」で、快楽だからです。意志の力で「見ても触らない」と頑張るのではなく、そもそも「見えなくする、楽しくなくする」ようにする。これが最初の鉄則です。
方法2 やる気をそぐ「摩擦」を増やす
どうしてもきっかけを完全になくせない場合もあります。スマホを仕事で使う人にとっては、デバイスそのものを手にしないわけにはいきません。
そこで効果的なのが、「摩擦を増やす」というアプローチです。先ほどのウッドの研究でも、習慣を変える鍵のひとつとして「習慣的な反応を難しくし、代わりの行動を簡単にする摩擦」が示されています。要は、悪い習慣を「やりにくく」、良い行動を「やりやすく」配置するということです。
例えば、お酒の量を減らしたいなら、まとめ買いをやめる。買い置きがなければ、飲みたくなったときに買いに行く一手間が「摩擦」となり、その間に冷静さが戻ってきます。SNSの使いすぎが気になるなら、ログアウトしておく。次に開くときにIDとパスワードを入れる手間が、無意識のひと押しを止めます。
=ゲッティ
人間は、たった数秒の余分な手間で、行動を諦めるようにできています。「なんとなく」開いていたものが、「わざわざ」開かないと使えなくなった瞬間、その行動の頻度はぐっと下がります。
反対に、健康的な行動には摩擦を減らします。運動着を前夜にセットしておく、果物を目に入る場所に置く、水筒をいつも机の上に置いておく。意志の力ではなく、面倒くささのバランスを設計することで、行動は自然と変わっていきます。
方法3 「もし○○したら、△△する」と決めておく
三つ目は「行動の置き換え」です。習慣の3ステップのうち、「きっかけ」を消せず「摩擦」も増やせない場面では、同じきっかけに対して別の行動を割り当てるしかありません。
ここで強力なのが、ニューヨーク大学のゴルウィッツァーらが提唱した「if-thenプランニング」(実行意図)です。「もし〇〇という状況になったら、△△をする」と、あらかじめひと組のセットとして決めておくやり方です。
ユトレヒト大学のアドリアーンセらが行った研究(※4)では、お菓子を食べる習慣がある人たちに、「もし疲れたと感じてお菓子に手を伸ばしたくなったら、代わりにリンゴを食べる」のような置き換え型のif-thenプランを立ててもらいました。すると、頭の中で「お菓子」が反射的に思い浮かぶ優位性が消え、別の行動に切り替えやすくなることが示されました。
やめたい行動を「やめる」と決意するだけだと、「やめなきゃ、やめなきゃ」と頭の中でその行動ばかり考えてしまうことがあります。それよりも「同じきっかけが来たら、代わりにこれをする」と決めておく方が、ずっと効果的なのです。きっかけを消せなくても、その先のルートを書き換えられるということです。
引っ越し、転職は「絶好のチャンス」
最後に、行動科学の世界で「習慣の不連続性仮説」と呼ばれる、希望に満ちた知見をひとつご紹介します。
バース大学のフェルプランケンらが行った研究(※5)では、最近引っ越した大学職員と、引っ越していない職員の通勤手段を比較しました。すると、環境問題への関心が同じくらいの人同士で比較したとき、引っ越した人の方が車から自転車や徒歩などへ切り替える割合が明らかに高かったのです。
=ゲッティ
デューク大学のウッドらの研究(※6)でも、転入先の環境が前の大学と変わった学生は、運動・読書・テレビ視聴などの習慣が途切れ、改めて自分の意図に沿った行動を選び直す傾向が見られました。
このように、引っ越し、転職、転勤、出張、長期休暇など、生活の文脈が大きく変わるタイミングは、悪い習慣を断ち切るために自然に訪れる絶好の機会だということです。きっかけが物理的に消えるからこそ、自動運転が一時停止し、新しいルートを作り直せる。何かを変えたいなら、わざわざ環境ごと変えるのも、立派な戦略になります。
自分責めをやめて、設計し直す
悪い習慣がやめられないのは、あなたの意志が弱いからではありません。脳がきちんと仕事をしているからです。だからこそ、戦う相手を間違えてはいけません。
敵は自分の中の意志ではなく、自分の周りに張り巡らされた「きっかけ」と「摩擦」と「経路」のネットワークです。これは設計し直すことができます。きっかけを消し、摩擦を加え、別ルートを用意し、節目には環境ごと変えてみる。今日、ひとつだけでいいので、自分の暮らしのなかから「きっかけ」を一つ選んで、目に入らない場所にしまってみてください。それが、悪習慣を断つ最初の小さな一歩になります。
(※1)Neal, D. T., Wood, W., & Quinn, J. M. (2006). Habits—A repeat performance. Current Directions in Psychological Science, 15(4), 198–202.
(※2)Wood, W. (2024). Habits, goals, and effective behavior change. Current Directions in Psychological Science, 33(4), 223–230.
(※3)Dekker, C. A., & Baumgartner, S. E. (2024). Is life brighter when your phone is not? The efficacy of a grayscale smartphone intervention addressing digital well-being. Mobile Media and Communication, 12(3), 688–708.
(※4)Adriaanse, M. A., Gollwitzer, P. M., De Ridder, D. T. D., de Wit, J. B. F., & Kroese, F. M. (2011). Breaking habits with implementation intentions: A test of underlying processes. Personality and Social Psychology Bulletin, 37(4), 502–513.
(※5)Verplanken, B., Walker, I., Davis, A., & Jurasek, M. (2008). Context change and travel mode choice: Combining the habit discontinuity and self-activation hypotheses. Journal of Environmental Psychology, 28(2), 121–127.
(※6)Wood, W., Tam, L., & Guerrero Witt, M. (2005). Changing circumstances, disrupting habits. Journal of Personality and Social Psychology, 88(6), 918–933.
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堀田秀吾
明治大教授
ほった・しゅうご 1999年、シカゴ大博士課程修了。専門は法言語学、心理言語学。言葉とコミュニケーションをテーマに、さまざまな学問分野を融合した研究を展開。習慣・自己管理などの著書を多数出版している。