自覚症状ない高血圧 あなたは大丈夫?
2026/05/21
健康診断での血圧検査=東京都千代田区で2025年11月19日、手塚耕一郎撮影
日本人の3大死因とされる心疾患や脳血管疾患の背景には、高血圧が大きく関与している。しかし高血圧自体に自覚症状がなく、予防の重要性が認知されていないことが課題となっている。5月17日の「高血圧の日」を前に、昨年改定された「高血圧管理・治療ガイドライン」のポイントや、日常生活で取り組む予防法などについて、日本高血圧学会理事長の苅尾七臣・自治医科大教授(循環器内科)に話を聞いた。【聞き手・三股智子】
――日本人の高血圧の現状を教えてください。
(診断基準に当てはまる)高血圧人口は推定4300万人です。しかし治療でコントロールできている人はうち27%程度に過ぎず、約45%の人は未治療です。治療中でも過半数はコントロール不良です。学会でも四半世紀前から治療ガイドラインで社会にメッセージを出してきましたが、浸透していません。まずは自分の血圧がどれくらいかを認識していただきたいです。
――どのような取り組みをしていますか。
薬局、職場、公共施設などに設置した血圧計で自己測定する「キオスク血圧」測定の社会浸透です。さらに「ウエアラブル血圧計」、腕時計型でいつ、どこでも計測できる血圧計の普及です。ベルトの内側が計測時に膨らみ血管を圧迫する「カフ(腕帯)」がないと正確性に欠けますので、カフタイプがいいでしょう。
若い世代には、家庭で血圧測定をと言っても難しいかもしれません。現役世代(20~50代)で健康診断以外に血圧を測るのは年1回以下の人が70%を超えるという調査もあります。
問題は40~50代で気づいたら脳出血になる事態です。脳出血患者で、発症前に未治療の高血圧だった割合は年齢が若いほど大きく、50歳未満では約8割に上ったという研究があります。高血圧は心筋梗塞(こうそく)や大動脈解離などの原因にもなります。いつでもどこでも血圧を測定し、130超ならリスクがあると認識することが重要です。その後、家庭で朝の血圧を測定して130以上が続けば医療機関を受診してください。
――「いつ」測るのがいいでしょうか。
「血圧朝活キャンペーン」を進めています。朝は、脳卒中や冠動脈疾患など循環器の大きな事故が起きやすいです。睡眠で体が休んでいた状態から、活動を始めることで血圧が上昇します。一方、朝方は血液が固まりやすかったり、血管も収縮して広がりにくかったりします。この状態で血圧が変動すれば血管壁を引き伸ばして、動脈硬化壁に付いている動脈硬化プラークが破裂したり、もろい血管壁が破れたりすると、脳卒中や心筋梗塞が引き起こされます。
――高血圧管理・治療ガイドラインが昨年、6年ぶりに改定されました。
血圧を下げる目標値を、どの患者も「収縮期血圧(上の血圧)130、かつ拡張期血圧(下の血圧)80ミリHg未満」に統一しました。それまでは、75歳以上の高齢者や持病のある患者では「上が140、下が90未満」などと複数の目標値があり、患者さんも医師も「これくらいでいい」と気が緩み、治療目標を達成できない事例がありました。薬の変更や追加などが適切に行われず、漫然と治療が継続されてしまう状態です。患者さんが自ら薬を間引いてしまうことも問題です。改定後、医師からは「目標値の余地がなくなり、患者さんに説明しやすい」という声が寄せられています。
「上が130、下が80」という目標値は世界的な流れで、日本でも合わせて取り組んでいきたいです。
――自身や家族の血圧に悩む方にメッセージを。
まずは朝の血圧を測定し、血圧をコントロールできているかどうかを自覚してみましょう。「高血圧の日」を機に関心を持ってもらいたいです。
苅尾七臣・日本高血圧学会理事長
■人物略歴
苅尾七臣(かりお・かずおみ)氏
1962年生まれ。87年自治医科大医学部卒業。米コーネル大での研究などを経て、2005年自治医科大教授。24年10月から日本高血圧学会理事長。国際高血圧学会をはじめ、中国や欧州のガイドライン作成にも携わる。専門は循環器内科学、老年病学、高血圧と血栓症の病因と治療。
日本高血圧学会が、医師や患者向けに策定してきた治療ガイドライン。2025年の改定では名称に「管理」が加わり、予防や生活習慣の改善を含んだ血圧管理の重要性を示した。
高血圧の診断基準は、「収縮期血圧(上の血圧)140ミリHg以上かつ、または拡張期血圧(下の血圧)90ミリHg以上」で据え置く一方、降圧目標は患者の年齢や持病に関わらず原則として上が130、下が80未満に統一した。下げすぎが懸念されていた患者グループでも、この降圧目標の利益が、不利益を上回る結果が蓄積されてきたからという。高齢者は健康状態などによって目標や治療を見直す。
高血圧管理・治療ガイドライン2025
今回は薬に頼るだけでなく、食事や運動、飲酒の抑制や禁煙などの生活習慣改善の重要性も強調された。
食事に関しては、塩分を排出する役割を持つカリウム摂取量を増やし、カルシウムやマグネシウム、食物繊維、不飽和脂肪酸も積極的にとり、飽和脂肪酸やコレステロールを抑える地中海食の実践が勧められた。
運動では新たに、レジスタンス運動が取り上げられた。体幹を鍛えるプランクなど、筋肉に負荷や抵抗をかける筋力トレーニングの一種だ。ウオーキングやスイミングなどの有酸素運動と組み合わせ、定期的に行うのが良いという。
ただ、生活習慣の改善だけで目標血圧を達成できる患者は少ない。血圧の高さと脳心血管病リスクに応じて、早めに降圧薬治療を始めることなども記された。
血圧が高めの人の食事改善として注目されるキーワードが「ナトカリ比」だ。
高血圧や循環器病を防ぐには「減塩」、つまり血圧上昇の原因となるナトリウムの摂取量を減らすことが推奨されてきた。日本高血圧学会は1日6グラム未満の減塩を推奨するが、実際には、成人男女とも平均で9グラム以上、摂取していると推定されている。
一方、ナトリウムを体外に排出する作用があるのがカリウムだ。尿の中に含まれるナトリウム/カリウムの比(ナトカリ比)が大きいほど血圧が高くなることが知られている。今回のガイドラインではナトカリ比の目標について、理想は2未満、実現可能目標を4未満と掲げた。健診機関や医療機関で調べられる。
カリウムは野菜や果物、海藻類、豆・芋類に豊富に含まれている。カリウムは水に流れ出やすいので、乾物を戻した水やゆで汁、煮汁も一緒に食べるのがいいという。
例えば、刻み昆布は100グラムあたり8・2グラムのカリウムを含み、煮物1人前で成人1日分をほぼまかなえる。ほうれん草やアボカド、バナナにも豊富に含まれる。厚生労働省がまとめた摂取基準によると、カリウムの目標摂取量は、成人男性1日3グラム以上、成人女性2・6グラム以上。達成には野菜を1日350グラム、果物を1日200グラム食べるのが目安だ。
ただし、腎臓病などで医師からカリウムの摂取制限を受けている場合は、医師の指示を守る必要がある。