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「人は血管とともに老いる」――この名言を残したのは19世紀のカナダに生まれた近代医学教育の父、ウイリアム・オスラー。血管が老いると、その中を通る酸素や栄養分が全身に十分に行き渡らず、細胞や組織がダメージを受けます。その結果、肌や髪の不調、冷え、肩こりなどが生じるばかりでなく、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)を引き起こすこともあるのです。
血管年齢を若く保つために重要なのが脂質のコントロール。血液中の脂質が多すぎると、少しずつ血管の内側にたまり、血管の老化を招いてしまいます。時間栄養学を活用した脂質コントロールをご紹介しましょう。
「脂質異常+高血糖+高血圧」のトリプルリスク
見た目は元気でも男性は30代から、女性は閉経後の50歳前後から血液中の脂質は増えていきます。脂質はホルモンや細胞、脳などの働きをサポートしており、多すぎても少なすぎても問題です。悪玉と言われるLDLコレステロールや、善玉と言われるHDLコレステロール、また中性脂肪の数値で、体にどれくらい脂質があるかを確認できます。
=ゲッティ
こうした血中脂質の数値が高すぎたり低すぎたりして異常な状態が続くと、脂質異常症という生活習慣病になります。脂質異常は少しずつ血管が流れる場所を狭くし、血管をもろくして動脈硬化を促します。しかし、ほとんどの場合で自覚症状はなく、放置すると10年後、20年後に心臓病や脳の病気に至る恐れがあります。だからこそ数値が少しでも異常を示している段階で、脂質コントロールに取り組むことが大病を防ぐことにつながります。
さらに脂質異常は高血糖(糖尿病)、高血圧と組み合わさることで危険度が上がります。トリプルリスクと言われるもので、三つの要因が重なると脳卒中や心疾患などを発症するリスクが約36倍にも高まってしまうことが分かっているのです。
脂質異常の五つの要因
脂質異常症になる理由には、前述した加齢の他にも次の通り、さまざまな原因があると考えられています。
○暴飲暴食…脂質だけでなく糖質も中性脂肪を上げる
食べ過ぎ飲み過ぎは、おなか周りに脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」になりやすいものです。内臓脂肪から血糖や血圧を上げる有害な物質が分泌され、LDLコレステロールを増やして、善玉HDLを減らしてしまいます。かつ、過食によって摂取したエネルギーが肝臓で中性脂肪に変換されて蓄積され、さらに脂質の代謝異常を招いてしまうのです。
また、アルコールは肝臓での中性脂肪の合成を進め、血中の中性脂肪値を高めたり、脂肪肝(肝細胞の30%以上に中性脂肪が蓄積した状態)になったりするリスクが高まります。中性脂肪は食事やアルコールの影響を受けやすく、健康診断の前日に揚げ物や脂質の多い肉を食べたり、お酒を飲んだりすると、血液検査の数値に反映されやすくなるのです。
肝臓でのコレステロール合成を促進し、LDLコレステロール値を強く上昇させるものに飽和脂肪酸(バター、ラード、生クリーム、鶏皮などの肉の脂身、バラ肉などに多く含まれる)があります。また、LDLコレステロールを増やすだけでなく、HDLコレステロールを減らしてしまうものとしてトランス脂肪酸(スナック菓子、洋菓子、ショートニング、揚げ物などに多く含まれる)があります。
=ゲッティ揚げ物にはトランス脂肪酸が含まれる=京都市北区で2023年7月22日、佐藤賢二郎撮影
血液中のコレステロールは約2〜3割が食事由来、残りが肝臓で合成されたものです。食事による摂取量が多ければ合成量が減り、少なければ合成量が増えるというように、通常は体内でバランスが保たれています。よって、コレステロールが多い食材を過剰に避ける必要はありません。ただ、すでにLDLコレステロールが高い方はコレステロールを調節する力が弱まっているため、高コレステロール食材(卵黄、タラコ、イクラなど魚卵、レバーなどの内臓類)は控えた方が良いでしょう。
また、意外に思われるかもしれませんが、脂質ではなく糖質(白米、麺類、甘い飲み物)の過剰も中性脂肪を上げる要因になります。糖質を取って血糖値を下げるインスリンが分泌されると、体は「脂肪を蓄積するモード」に切り替わります。ここに脂っこい食べ物が合わさると、脂質がそのまま脂肪細胞へ取り込まれやすくなってしまうのです。カツカレーやラーメン+チャーハン、カツ丼+そばなどは脂肪がたまりやすいメニューと言えます。特に夜は、脂肪をため込むBMAL1(ビーマルワン)というたんぱく質が体内で増えるため、糖質×脂質の組み合わせは血中脂質の急上昇と蓄積を招く最悪のパターンになります。注意が必要です。
=ゲッティ
○運動不足…20歳の時に比べて10㎏以上の体重増加は脂肪肝のリスクが倍に
食べたものを消費できれば問題ありませんが、運動不足によって糖分や脂質が体内で余ってしまうと中性脂肪として蓄えられます。血中の中性脂肪が増えると、HDLコレステロールが減り、動脈硬化のリスクを高めます。
さらに運動不足は脂肪が消費されないだけでなく、血糖値を下げるインスリンの働きを弱めたり、肥満をもたらしたりします。特に20歳時から体重が10kg以上増加した人の脂肪肝の発症リスクは、そうでない人に比べて2倍以上になることが明らかになりました。
○喫煙…吸わない人でも血管は傷つく
たばこにはニコチンや一酸化炭素など有害な物質が多く含まれています。この有害物質が中性脂肪やLDLコレステロールの合成を促進し、HDLコレステロールを減らしてしまうことが分かっています。
たばこの煙は吸わない人にも悪影響を及ぼす=東京都千代田区で2017年9月1日、中村琢磨撮影
また、ニコチンには血管収縮作用があるため、血管内を狭くし、一酸化炭素は血管壁を傷つけやすくします。特に喫煙によって酸化した(サビた)LDLコレステロールは傷ついた血管に蓄積しやすく、血管内が硬く、狭くなって動脈硬化を促進させます。
さらにたばこから立ち上る煙(副流煙)やたばこを吸った人から吐き出された煙(呼出煙)にも有害な物質が含まれており、周りの人にも害を与えます。吸わない人が、副流煙や呼出煙を30分吸っただけでも血管壁が傷つき、心臓に酸素や栄養を送る血管がしなやかでなくなることも分かっています。
○ストレス…コルチゾールの分泌を促す
ストレスを受けると、コルチゾールというホルモンが分泌されます。このコルチゾールは肝臓での脂質合成を促進し、血中のコレステロールや血糖値を上昇させます。加えて、体内のコレステロールはコルチゾールの材料となるため、ストレスが多いとコレステロールが体で合成されやすくなります。
ちょっとしたストレスがすぐに大きなコレステロール上昇につながることはありませんが、睡眠不足や暴飲暴食、過労、暑さ寒さ、騒音といった日々のストレスの積み重ねがLDLコレステロールや中性脂肪などを上昇させ、動脈硬化リスクを高め、血管年齢を上げてしまうのです。
○遺伝…300人に1人の割合
ただ、生活習慣に気を付けていても発症する「家族性高コレステロール血症」という脂質異常もあります。生まれつきLDLコレステロールを肝臓に取り込む遺伝子の変異が原因で、日本では300人に1人程度が発症しています。若いうちからLDLコレステロール値が高く、動脈硬化も進行しやすいのが特徴です。根本的に完治することはなく、薬物療法や食事療法などが必要になるため、医療機関の受診が必要です。
動脈硬化のリスクをチェック
繰り返しになりますが、脂質異常は動脈硬化のリスクを高めます。では、あなたのリスクはどの程度でしょう? 下記項目にチェックが多いほど、高リスクになります。
このように血中脂質は食事によって大きく変動します。空腹時は中性脂肪が比較的低めになり、脂質や糖質を含む食事を取ると、食後数時間をかけて中性脂肪が上昇し、その後、ゆっくりと下がっていきます。ダラダラと食事をする、夜遅くに食べる、甘いものをたくさん食べる、主食が多く脂っこい食事を取るなどの食生活は、1日を通して中性脂肪が高めに推移しやすくなります。一方、LDLコレステロールやHDLコレステロールは中性脂肪と違い、短時間で大きく変動することはありません。
脂肪をためるたんぱく質は22時頃から急増する
また、脂質の代謝は、1日の中で体内時計によってコントロールされています。
特に起床から午前中の間は「やる気スイッチ」を入れる交感神経が優位になるため、肝臓や小腸などの働きが活発になります。その結果、脂質の消化や吸収、燃焼が促進され、特に昼食時は脂質がエネルギーとして消費されやすい時間帯になります。
そのため同じ脂質量でも、夜より朝や昼の方が燃焼しやすくなります。逆に言うと、就寝直前の飲食は長い時間、血中脂質を高め、食べたものを消費することなく、脂肪として蓄積しやすくなってしまうのです。体内の脂肪を合成しやすいか、燃やしやすいかは、前述したBMAL1にかかってきます。
BMAL1は6時ごろから減り始め、14〜15時ごろに最も少なくなります。逆にその後、22時ごろになると急増し、2時〜4時ごろにピークを迎えるので、夜間はどうしても脂肪をため込みやすくなるのです。
朝食…良質な油を取る
上手に脂質コントロールするためには体内時計を整え、BMAL1が減少する日中にしっかり動くこと。増大する夜間には食事を控えることが大切です。
初回にお伝えした通り、起きた時に朝日を浴び、脳にある主時計をリセットする。それから1時間以内に、たんぱく質と炭水化物がそろった朝食を取ると、1日の脂質代謝リズムは安定しやすくなります。
質の良い油と言われているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、体内時計を整えるサポート役になってくれます。特に朝は脂質の消化・吸収を助ける胆汁の分泌が盛んなため、脂溶性であるDHAやEPAは夕食時よりも利用率が高くなり、血液中や肝臓の中性脂肪を減らす効果がより強くなることが分かっています。DHAやEPAは青魚やアマニ油などに含まれているので、忙しい朝でもサバ缶やツナ缶を活用し、サバ缶茶漬け、ツナサンドなどで手軽に摂取することをお勧めします。
サバ缶は朝食に取り入れたい=2019年9月10日、深津誠撮影昼食…食物繊維が夕食の血糖上昇を抑制する
以前の記事でもお伝えした通り、昼食の時間帯は脂質代謝が最も活発。太りにくい14時ごろまでに済ませておくことが肝心です。
食物繊維をたくさん食べておくと、夕食時に血糖値の上昇を抑えることができます。いわゆるセカンドミール効果です。もち麦ご飯にヒジキの煮物、具沢山のみそ汁にゴボウサラダなどをプラスするのも良いですね。食後にウオーキングやストレッチなど軽い運動をすると、脂肪燃焼効率がより高まります。
おやつ…15時前後にナッツやチョコを
間食に関しては、BMAL1が最も少ない15時前後に素焼きナッツや高カカオチョコなどを食べておくと良いでしょう。こうしたヘルシースナッキングは夕食までの空腹感を防ぎ、夜の過食を避ける効果が期待できます。
さらに脂肪燃焼が高まる夕方に筋肉を動かすと、中性脂肪を分解する重要な酵素が活性化します。結果、血中の中性脂肪を分解してエネルギーとして取り込み、中性脂肪の値を安定させてくれます。
夕食…主食とおかずを2回に分けて
夕食の理想の時間帯は18〜19時、遅くとも20時までになります。遅い夕食は脂肪蓄積のリスクが高まるので、遅くなる場合は2回に分ける「分食」をお勧めします。18時ごろにおにぎりやサンドイッチ(糖質)を食べ、帰宅後の遅い時間にメインのおかず(たんぱく質)を食べるのです。糖質×脂質を避けることで脂肪蓄積を抑制します。
夕食で食べたものの消化には、おおよそ2〜3時間(脂肪分の多い食事では4〜5時間)かかるので、寝る3時間前には終えるようにするのが理想的です。どうしても遅くなってしまう場合は、うどんや卵がゆ、豆腐など消化の良いものを選ぶと良いでしょう。
夕食時は脂質代謝の働きが弱まっているため、脂質の吸収をブロックする水溶性食物繊維(モズク、メカブ、納豆、キノコ類など)や酸味(レモン、酢、梅干し)を活用するのがお勧めです。海藻サラダやキノコのマリネ、また唐揚げやトンカツなどの揚げ物にレモンを搾る。ドレッシングやソースにはお酢を混ぜる。ハンバーガーにはピクルスを増量したり、ピザにペッパーソースをかけたりするのも脂質吸収の抑制につながります。
キノコのマリネにはレモンを搾るのがお勧め=2018年9月5日、根岸基弘撮影
調理をする際は油の扱いにも気を付けてください。何度も使っている油や何度も加熱した揚げ物などは油が酸化、劣化し、動脈硬化などをもたらしやすくなります。油の再利用は2回まで、油の多い総菜を電子レンジで温め直すのは1回までにすると良いですね。
飲み物や睡眠でもコントロール
飲み物にも脂質をコントロールする働きがあります。例えばコーヒーに含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸は中性脂肪の蓄積を抑えてくれます。緑茶の茶カテキンにはコレステロールの吸収を抑え、排出を促す働きも。黒烏龍茶のウーロン茶重合ポリフェノールは、脂肪が血管へ取り込まれるのを防いで排せつを促し、中性脂肪の上昇を抑えてくれます。食事の時に、これらを一緒に飲むのも良いですね。
緑茶の茶カテキンにはコレステロールの吸収を抑え、排出を促す働きが=2019年9月24日、望月麻紀撮影
肝心の睡眠は正常な脂質代謝やストレス軽減には欠かせないものなので、夜は6〜8時間程度、眠ることを心がけてください。朝スッキリ目覚められる自分なりの時間を見つけて就寝時間を調整しましょう。
脂質コントロールと言うと、「揚げ物を控える」とか「脂質を取らない」といったイメージに偏りがちですが、前述した通り、生活習慣全般が大切になってきます。中年期以降も若い頃と同じ生活を続けていては、脂質過剰から動脈硬化に一直線かもしれません。「今からどれだけ進行を遅らせるか」が血管年齢を左右すると心得て、身近なところから見直してみてください。血管年齢が若いと見た目も若々しくなります。「見た目年齢」と血管年齢が比例することは、さまざまな研究でも明らかになっています。
<参考文献>
・Tadasgu Nakamura et el.Magnitude of Sustained Multiple Risk Factors for Ischemic Heart Disease in Japanese Employees.JAPANESE CIRCULATION JOURNAL.2001 Volume 65 Issue 1 Pages 11-17.
・Masayo Iwasa et al.Self-Reported Weight Gain After the Age of 20 and Risk of Steatotic Liver Disease.Nutrients 2025,17(15),2566.
・R Otsuka et al.Acute effects of passive smoking on the coronary circulation in healthy young adults.JAMA.2001 Jul 25; 286(4):436-41.
・魚油による脂質代謝改善効果が摂取時刻によって異なることをマウスで発見.産業技術総合研究所.2016.11.1
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望月理恵子
管理栄養士
もちづき・りえこ 調剤薬局、健康食品会社を経て株式会社Luce代表。健康検定協会理事長。山野美容芸術短大講師、小田原短大講師、日本臨床栄養協会評議員、小田原銀座クリニック栄養顧問を兼務。著書に「やせる時間に食べてみた!」ほか多数