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夏のレジャーが楽しみな季節になりました。この記事が公開される7月1日は富士山の山開きで、約2カ月の夏山シーズンが始まります。この時期、富士山には国内外から登山者が集まり、山頂付近は渋滞が起きるほどです。対策として入山規制や通行料の徴収も始まりましたが、2025年夏山シーズンの登山者は20万人超と人気は衰えません。
私は、血圧測定に命をかけている世界一変わった男です。
ひょんなことから24時間365日、病めるときも健やかなるときも、一刻も肌身離さず自動血圧計を装着し、ひたすら自分の血圧を測り続けて39年を迎えようとしています。そのきっかけは、1987年8月22日、日本一の霊峰・富士山に登ったことでした。
今回は、登山など夏のレジャーの体への影響をご紹介しましょう。
命にも関わる高山病
私が生まれ育った千葉県の木更津市からは、東京湾越しに富士山が見え、市内のあちこちに富士見通りや富士見町という富士山にちなんだ地名があります。今私が働いている日本歯科大学付属病院がある「東京都千代田区富士見」も台地に位置し、高いビルがなかった時代にはどこからでも富士山がよく見えたということが、町名の由来になったといいます。
こんなわけで、子どものころから毎日のように見て育った富士山をとても身近に考えていました。一方で手の届かない遠くにあるため、一種の畏敬(いけい)の念を抱いていましたし、いつかは登ってみたいという願望も持っていました。
富士山ほど標高の高い山に登ると、低酸素状態に体が適応できずに頭痛や吐き気などの症状が出る「高山病」が起こることがあります。ヒトの体は、標高1500m以上になると低酸素環境に適応しようという働きが始まり、高山病が起こる可能性があります。2000mを超えると呼吸循環器系に影響が出始めるといいます。高山病が重症化すると、脳の血流が増加してむくむ「脳浮腫」や、肺胞に体液が染み出てたまる「肺水腫」をおこし、命に関わります。富士登山者887人に調査した研究(※1)では、高山病の発症率は軽症を含めて45%に上ったと言います。
まだ若手の医師だった私は、友人の医師に「高山病の予防法を研究するため、富士山に登ろう」と誘われ、二つ返事で引き受けました。同僚たちとチームを組み、登山中の血圧や心電図変化を捉えようと、携帯型自動血圧計と心臓の動きを記録できるホルター心電計を身につけて、24時間連続で測定しながらの富士登山に挑んだのです。
憧れの富士山で血圧測定
実験では、成人男性7人が富士山に登り、7合目(標高2740m)あるいは8合目(3400m)の山小屋に24時間滞在し、平地と比較して血圧や心拍数などがどのように変化するかを解析しました。
標高が高い場所ではよく「空気が薄い」などと表現しますが、実は空気中の酸素濃度は平地とほとんど変わりません。違うのは、大気圧が低下することで肺に酸素が送り込まれる力、つまり酸素分圧(=血液中の酸素濃度)が低下することです。富士山頂では、気圧も酸素分圧も平地の3分の2ほどにしかなりません。そうすると、心臓は平地で過ごす時より一生懸命動いて足りない酸素を体に補おうと努力します。したがって、心拍数が平地にいるときより増えてくるのです。
低酸素状態は交感神経を優位にして、血圧も少し上昇します。標高が高いほど気温が下がることも影響しているでしょう。高度が上がるのに伴って心臓への負荷も増大し、心臓疾患も起こりやすくなります。ホルター心電計をつけた4人が9合目で全力疾走する実験をしたところ、全員に心室頻拍という不整脈が7連続で現れました。低酸素環境での運動で、心臓への負荷が大きかったことを示しています。
富士登山は、バスなどの交通手段で到達できる5合目の登山口が標高1440~2400mと十分に高地です。トレーニングや計画・装備の準備、いざ登り始める前に高所に体を慣らすことが必要です。登山中に高山病の症状が表れたら、一旦休憩して、意識的に呼吸をして酸素をできるだけ取り込んでみましょう。回復しなかったり、ひどくなったりするようなら、下山して高度を下げることが重要です。
私は研究のためも含めて計4回富士登山を経験しましたが、感想を正直に言えば、「下界から見れば憧れの霊峰富士だが、上から見ればただのがれきの山」でした。一度は登りたいと思うが、二度と登りたくない……というのが実感でした。
実は危険な「ととのう」
スポーツなどでかいた汗を、シャワーや風呂で流すのも爽快です。数年前に社会現象にもなったサウナブームでは、室温が高いものでは100℃近くにもなるサウナで汗をかいてから、冷たい水風呂に入るサウナ温冷交代浴が人気を集めました。それにより深くリラックスした状態を表現する言葉「ととのう」は、2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。
しかし、愛好家の方には申し訳ないのですが、高血圧専門医の私からあえてはっきり言いたいことがあります。サウナと水風呂の往復はほとんど自殺行為に近いのです。高血圧や心臓病の持病がある方は、危険なのでやめていただきたいです。
サウナ自体の効果は、発祥の地とされるフィンランドで積極的に研究されており、高血圧や心血管疾患、肺疾患などの非血管疾患、関節炎や頭痛から、インフルエンザの症状緩和といった健康上の利点があるとする論文もあります。(※2)本当の問題は、サウナそのものよりも冷水浴で急激に体温を下げることです。室温や気温の急激な変化に伴う血圧など循環器動態の変動「ヒートショック」を、自ら作り出しているようなものなのです。
実測!サウナ内での血圧は
今から30年以上前、私は米ミネソタ大学に留学中で、休暇を利用して友人と世界最大の淡水湖であるスペリオル湖の湖畔に旅行に行きました。そのホテルは大自然の中のリゾート地にあり、屋外の別棟サウナが楽しみの一つでした。そこで私は、せっかくの機会だから携帯型自動血圧計をつけて入り、サウナ前後の自分の血圧を測ってみようと思い立ったのです。
サウナに入っていたのは30分。少々長すぎると思いますが、血圧の変化を測定したかったので、意図的に長めに入りました。サウナを出るころには心臓がドキドキし、不快感もあり、体に良くないと感じました。
実際に血圧を測ってみると、上の(収縮期)血圧が150mmHgをゆうに超え、「ドキドキする動悸(どうき)」を感じていました。心拍数も150をオーバー。汗をかいて激しい運動をしているときと同じ数値です。高温環境によって交感神経が活性化したことが原因です。たくさん汗をかいたことによる脱水の影響もあったでしょう。サウナがスポーツと同じくらいの負担を体に強いるものであることがわかりました。
この後は水風呂に……といきたいところかもしれません。しかし、若くて柔軟な血管の持ち主ならいざ知らず、血管がもろくなっている中高年の方や、糖尿病、高血圧の持病を持つ方にとっては危険な行為です。外気浴や、冷たすぎない温度のシャワーで汗を流す程度にとどめていただきたいと思います。
私がおすすめするサウナの健康的な楽しみ方は、以下の3点です。
・60℃のサウナに最大15分まで
・水風呂に入るのは厳禁
・サウナに入る前と後に、コップ1杯以上の水を飲むこと
今年も、全国的に暑い夏が予想されています。気温が高い日だけでなく、暑くなりはじめの時期や、湿度が高い梅雨の晴れ間、梅雨明けまもなくの蒸し暑い時期に熱中症が多く発生します。体調に気を配りながら、夏のレジャーを楽しんでください。
※1 Influence of Smoking and Alcohol Habits on Symptoms of Acute Mountain Sickness on Mount Fuji: A Questionnaire Survey-Based Pilot Study
※2 Cardiovascular and Other Health Benefits of Sauna Bathing: A Review of the Evidence
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渡辺尚彦
日本歯科大客員教授
わたなべ・よしひこ 1978年聖マリアンナ医大医学部卒、84年同大学院博士課程修了。医学博士。米ミネソタ大時間生物学研究所客員助教授、東京女子医大教授、早稲田大客員教授など歴任。高血圧専門医。循環器専門医。