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「行列のできる整形外科」の連載第2回です。読者の方からの相談の集まりが今ひとつのようなので、今回は担当編集者のお母様(85)からの外反母趾(ぼし)の悩みを取り上げます。整形外科のお悩みがある方、今がチャンスです(受け付けは末尾にあります)。
外反母趾といえば、2019年に働く女性たちが起こした「#Ku too(クツー)運動」が思い出されます。運動の発起人が「仕事でパンプスを履かなければならない苦痛」をSNSに投稿したことから始まり、苦痛の具体例として、多くの女性から外反母趾の悪化や足の変形、出血などの体験談が殺到しました。ヒールが高い靴は、体重のほとんどがつま先側にかかります。また先の細いパンプスの中で足の指が左右から強く押し潰されます。この状態が毎日何時間も続くことで、親指の付け根の関節が変形し、外反母趾が引き起こされるのです。しかし外反母趾の原因はそれだけではありません。詳しく見てみましょう。
65歳以上でも約36%が罹患
医学的に説明すると、外反母趾とは足の親指(母趾)が小指(第5趾)の方向に傾く疾患です。親指にとって小指は体の中心から遠い外側にあります。医学的には体の中心に向けて反ることを内反、外側に反ることを外反と呼ぶため、この症状を外反母趾というのです。足部の疾患で最も多いとされ、18~65歳で23%、65歳以上で35.7%が罹患(りかん)しているという報告もあります。
地域住民に対する調査で有病率を見ると、男性が11.6~22.4%、女性が35.2~43.8%との報告があります(注1)。ただしこれらは変形する頻度であり、痛みを伴うものはその一部です。
原因はさまざまです。ヒールの高い靴や先端の細い靴を履き続けるなどの外的要因のほか、内的因子として親指が人さし指(第2趾)以下より長い「エジプト型」の足やへんぺい足、開帳足との関連も指摘されています。へんぺい足は足裏の内側縦アーチ(土踏まず)がない状態、開張足は親指の付け根から小指の付け根を結ぶ横アーチが崩れ、足の横幅が広がってしまった状態を指します。
このようにアーチ構造が崩れると、荷重がかかった時に靴の内側に当たって摩擦による痛みが生じます。30歳前後の女性ではハイヒール着用による外反母趾が多いですが、多く発症するのは中年以降の女性です。それには加齢や運動不足による筋肉の衰えが指摘されています。
厚生労働省に署名提出へ向かう石川優実さん(先頭)ら=東京都千代田区で霞が関1で2019年6月3日、中川聡子撮影弓のように親指が湾曲
足の筋肉が衰えると、なぜ外反母趾が起きるのでしょうか。解剖学的に見ると以下のようになります。
変形の起点である親指の付け根の関節(MTP関節)の下側には種子骨と呼ばれる丸い骨が二つ並んでいます。種子骨から伸びた腱(けん)は親指の先とつながっていて、親指の位置を保つ「手綱」のような役割を果たしています(注1、2)。
一方、加齢や歩行機会の減少などで筋力が低下すると、足裏のアーチ構造が崩れ、次にかかとや足首が体の内側に倒れ込む「回内(かいない)」という状態になります。すねより上の部分が外側に傾くことで直立時にはバランスを保っていますが、回内が進んでかかとや足首が内側に傾くと、さらにアーチ構造が崩れるという悪循環が起こり、親指の付け根の骨が内側(土踏まず側)へずれてしまいます。しかし親指を正常の位置に保っている腱は真っすぐのままなので、「脱線(種子骨の亜脱臼)」が起き、親指の骨と腱がまるで弓道で使う弓と弦のような関係になってしまうのです。これが外反母趾です。
回内が進むと、親指の付け根の関節はどんどん体の内側に大きく突き出すようになり、靴を履くと摩擦を起こして強い痛みが生じるようになります。この状態になると、装具を使った治療が必要になります。
レントゲンと問診が重要
外反母趾は、足の親指の変形でわかるため診断は比較的容易です。ただ痛風などによる変形の場合もあるため、正面と側面の2方向からレントゲン検査を実施し、変形の状態を確認します。
症状の程度は、足の親指の反り返りの角度で判断します。20~30度が軽度、30~40度が中等度、40度以上が重度です。正面から撮影したレントゲン画像では、足の親指と人さし指の間隔(M1―M2角)を測り、種子骨のずれなどを評価します。
外反母趾の最大の問題は痛みですが、痛みがなくても変形を気にして受診する人も少なくありません。特に夏になると、サンダルなどで足を露出する機会が増えるため、受診者が増えます。また見た目の悩みから、抑うつや不安神経症などの精神疾患を発症するケースもあります。
診察では問診も重要です。発症が靴によるものか、先天性の疾患によるものか、日常生活の過ごし方によるのかの原因の特定に役立ちます。また普段履いている靴の形状も確認します。前部の余裕度や靴底の摩耗の部位を確認します。また足も観察し、変形の角度や他の指の変形に加え、胼胝(べんち=たこのことです)の有無や部位の確認、圧痛部位などを確認します。軽症の場合、荷重をかけないと確認できない変形もあるため、立ち姿の観察も重要です。
装具療法で改善 重度の場合は手術も
診断がついたら、治療です。
問診の結果、靴に原因があった場合は幅の広い靴やヒールの低い靴を選ぶよう指導します。また足の親指の付け根の内側に腫れや発赤が起きている場合には滑液包炎(バニオン)の可能性があります。バニオンとは、外反母趾によって親指の付け根が外側に大きく突き出した結果、その部分が靴と擦れて滑液包炎を起こして赤く腫れ上がったこぶです。この場合、炎症を抑える湿布などの外用薬や内服の抗炎症薬を処方します。
軽症であれば、装具を勧めた上での保存療法になります。多くは靴の中敷き(アーチサポート)や母趾外転装具です。
aがストラップ型、bがジョイント型の装具=「実践 足の保存療法」(熊井司著、文光堂)より
中敷きは変形を矯正する効果はありませんが、疼痛(とうつう)軽減の効果があります。母趾外転装具は進行防止とともに、見た目を整える効果があり、軽度から中等度の症例に適応があります。ただしこの装具での矯正力は装着時のみ有効で、外すと元に戻ってしまいます。そのため、矯正への期待が大きい人では、すぐに外してしまいがちです。どちらも市販品とオーダーメードの医療用があります。
滑液包炎を起こしている場合には、バニオン表面を保護するためのパッドを使用することもあります。
これらの装具を用いても変形が改善せず、歩行障害がある場合や親指の付け根に潰瘍などの傷が繰り返し生じている場合は手術の適応となります。
手術の基本は、親指の甲にある長い骨(第1中足骨)を医療用ののこぎりで一度切り離す骨切り術です。
骨を切った後、親指と人さし指のずれ(M1―M2角)を正しい位置に戻し、骨を医療用のチタン製のネジ(スクリュー)やワイヤで固定します。土台の骨がまっすぐになるため、弓の弦のようになっていた腱や種子骨も元の正しい位置に収まります。
骨を切るため、手術後数日間は強い痛みが出ますが、現在は病院で強力な痛み止め(ブロック注射や点滴)が使われるため、過度に恐れる必要はありません。バニオンがあった場合でも、手術後は骨の突き出しが完全になくなるため、痛みはなくなります。骨が完全にくっついた後は、痛みを気にせず歩けるようになります。近年は切開幅が小さい低侵襲手術が主流になっています。傷痕がほとんど目立たないため、見た目の悩みも同時に解決できます。
注1 外反母趾診療ガイドライン2022 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会
注2 「実践 足の保存療法」熊井司 文光堂
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斎藤貴徳
関西医科大脊椎神経センター長
さいとう・たかのり 1983年関西医大卒。同大付属滝井病院整形外科部長、同大総合医療センター病院教授などを経て、同大整形外科学主任教授。専門は脊椎と末梢神経。同大常務理事。