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「砂糖は控えたい。でも甘いものは楽しみたい」。そんな時、多くの人が手に取るのがゼロカロリー飲料や糖質オフ食品ではないでしょうか。
コンビニやスーパーには、飲料、ヨーグルト、プロテインバー、お菓子など、「ゼロ」「糖質オフ」「カロリー控えめ」と書かれた商品が数え切れないほど並んでいます。その甘さを支えているのが、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、エリスリトールなど、砂糖の代わりに使われる低・無カロリー甘味料です。いまやこれらは私たちの食生活の一部です。
ただし、ここで考えてみましょう。「カロリーがゼロなら、体の中でも何も起きていない」と本当に言えるのでしょうか。実は最近、この常識に疑問を投げかける研究が世界中で次々と発表されています。
世界で急増する糖尿病と認知症
低・無カロリー甘味料が急速に普及した背景には、世界的に増え続ける生活習慣病があります。アメリカを見ると、現在「成人の約7人に1人が糖尿病」「約4割弱が前糖尿病」「約2人に1人が高血圧」「約4割が肥満」と報告され、糖尿病関連医療費だけでも年間4000億ドルを超えると推計されています。
そこで世界中で「砂糖を減らそう」という流れが加速し、その代替として低・無カロリー甘味料が広く使われるようになりました(注1)。
日本も例外ではありません。2024年の調査では、糖尿病が強く疑われる人は約1100万人と推計されました。成人の8人に1人に相当し、1997年の調査開始以来、増加傾向が続いています(注2)。しかも、日本人は欧米人ほど太っていなくても糖尿病になりやすい体質を持つことが知られています。
実際、「国民健康・栄養調査」では、95年以降、総エネルギー摂取量や食塩摂取量は減少しているにもかかわらず、2型糖尿病や肥満が特に男性で増えていることが報告されています。つまり「食べる量は減っているのに、代謝の病気は増えている」という、一見矛盾した現象が起きているのです(注3)。背景には、運動不足だけでなく、食事内容の変化、筋肉量の低下、睡眠、生活環境など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
世界では、もう一つ大きな問題があります。認知症です。認知症患者は19年の約5000万人から、50年には約1億5200万人に達すると予測されています(注4)。
超高齢社会の日本では「長生き」だけでなく、「脳の健康をどう守るか」が大きな課題です。これまで認知症予防には運動や睡眠、血圧・糖尿病の管理、バランスの良い食事が重要と考えられてきました。ところが最近、世界中の研究者が注目し始めたのが、低・無カロリー甘味料と脳の健康です。
=ゲッティ
「低・無カロリー甘味料は、糖尿病や心血管疾患だけでなく、認知機能にも影響する可能性があるのではないか」。そんな疑問から、研究が急速に進んでいます。こうして「カロリーがほとんどないから体には何も影響しない」という、これまでの考え方は少しずつ見直され始めています。今回はこの疑問に迫った2本の論文をご紹介します。
1万3000人を8年追跡
ブラジル・サンパウロ大学の研究者は、国内6都市で募った35〜74歳の現役および退職後の公務員約1万3000人を8年間追跡しました(注5)。参加者は研究開始時に、調査票を使って過去1年間の食事内容を回答しました。研究者らは食品や飲料に含まれる成分情報をもとに、7種類の低・無カロリー甘味料の摂取量を推定しました。認知機能検査は追跡期間中に複数回実施されました。つまり「カロリーゼロ飲料を飲むかどうか」ではなく、食品に含まれる「アスパルテーム」「サッカリン」「アセスルファムK」「エリスリトール」「キシリトール」「ソルビトール」「タガトース」という7種類の甘味料別に影響を調べたのです。本記事では便宜上これらを人工甘味料と総称しますが、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムKの3種が人工甘味料(高甘度甘味料)でエリスリトール、キシリトール、ソルビトールの3種は糖アルコールに該当します。タガトースは天然由来の希少糖です。
糖尿病や高血圧、BMI(体格指数)、運動習慣、喫煙、飲酒、食事全体の質(MIND食)といった参加者それぞれに背景を調整し、人工甘味料以外の影響をできるだけ取り除きました。
1.6年認知機能低下が早く
人工甘味料の摂取量が多い順から参加者を三つの群に分けて解析した結果はとても興味深いものでした。人工甘味料を最も多く摂(と)っていた人ほど、言語流暢りゅうちょう)性(言葉を素早く思い出す力)と総合認知機能の低下が有意に速く、記憶力についても低下が速い傾向がみられました。
特に、人工甘味料を最も多く摂っていた群は最も少なかった群に比べ認知機能の低下が8年間で約1.6年分余計に進んだと推計されました。
なお人工甘味料を多く摂っていた人は、女性や高学歴、高所得者が多く、運動習慣も比較的良好でした。一方で、高血圧や糖尿病を持つ人も多く、「健康のために砂糖の代わりに人工甘味料を選んでいた人」が含まれていた可能性があります。この点を考慮して解析しても、認知機能低下との関連は認められました。個別にみると、タガトースを除く六つの低・無カロリー甘味料では、摂取量が多いほど、記憶力、言語流暢性、または総合認知機能の低下が速い傾向がみられました。
60歳未満で関連が強く
さらに驚いたのは、この関連が60歳以上より、60歳未満でより強く見られたことです。認知症は高齢になって突然始まる病気ではありません。現在では、症状が出る20〜30年前から脳の変化が始まると考えられています。つまり、40~50代の食生活が、将来の脳の健康に関係している可能性があります。
ただし、この研究は観察研究です。つまり、人工甘味料が認知機能低下の原因だと証明したわけではありません。例えば、糖尿病や肥満のリスクが高い人ほど、砂糖を避けるために人工甘味料を選んでいた可能性もあります。それでも約1万3000人を8年間追跡し、複数の人工甘味料を個別に評価した研究は、世界でも非常に少なく、人工甘味料と脳の健康を考えるうえで重要な研究と言えるでしょう。
では、人工甘味料はなぜ脳に影響する可能性があるのでしょうか。そのヒントになったのが、米ボストンのタフツ大学の研究者らによる最新のレビューです(注4)。この論文では、21本のランダム化比較試験(RCT)を新たにまとめて、人工甘味料そのものが体へ与える影響を調べました。
この調査で重要なのは、砂糖入り飲料との比較ではなく、水やプラセボと比較した研究だけを解析した点です。つまり「砂糖を減らした効果」ではなく、人工甘味料そのものの影響を見ています。
21件のランダム化比較試験をまとめた解析では、人工甘味料を摂取した群で、
•空腹時インスリンがわずかに上昇
•HbA1cがわずかに上昇
•インスリン感受性が低下する傾向
がみられました。一方、長期の観察研究では、人工甘味料を多く摂取している人ほど
•心血管疾患リスクが約4〜10%高い
•脳卒中リスクが約19%高い
という関連が報告されています。
一方で、「BMI」「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「中性脂肪」には明確な変化はありませんでした。つまり、体重よりも先に血糖を調節する仕組みへ影響している可能性が示されたのです。
主役は腸内細菌か
最近、研究者が最も注目しているのが腸内細菌です。人工甘味料の一部は小腸で完全には吸収されず、そのまま大腸へ届きます。そこで腸内細菌と直接接触します。
特に注目されたのが、120人の健康成人を対象にしたランダム化比較試験です(注6)。たった2週間でも、スクラロースとサッカリンでは、ブドウ糖を飲んだ後の血糖反応が悪化しました。さらに、腸内細菌の構成も変化していました。そして最も興味深かったのが、人工甘味料で血糖反応が悪化した人の腸内細菌を、無菌マウスへ移植すると、そのマウスでも血糖反応が悪化したことです。これは、人工甘味料が腸内細菌を変化させ、その変化が糖代謝の悪化につながるという可能性を支持する重要な結果でした。
=ゲッティ
もう一つ重要なのは、人工甘味料は一括(くく)りにはできないことです。甘味料によって、腸内細菌、糖代謝、心血管系などへの影響が異なる可能性があります。ただし、個々の甘味料についての研究はまだ限られています。
こうした研究の積み重ねを受け、世界保健機関(WHO)は23年、「体重管理や生活習慣病の予防を目的として、人工甘味料を長期間使用することは勧めない」とする新しいガイドラインを公表しました(注7)。
その理由は、人工甘味料を長期間使用しても、持続的な体重減少効果を示す十分な証拠が得られなかった一方で、観察研究では2型糖尿病や心血管疾患、死亡リスクとの関連が報告されているためです。
もっとも、この勧告は「人工甘味料は危険だから禁止すべきだ」という意味ではありません。科学的根拠(エビデンス)の確実性はまだ高くないため、「条件付きの推奨(Conditional recommendation)」という位置づけです。また、このガイドラインは糖尿病と診断されている人を対象としておらず、エリスリトールやキシリトールなどの糖アルコールも対象外です。
今回ご紹介した2本の論文を読んで、私が改めて感じたことがあります。これまで人工甘味料は、「砂糖より体に良いもの」として語られることが多くありました。しかし、最新の研究を読んでいると、議論はすでにその先へ進んでいます。
いま問われているのは、「砂糖より良いかどうか」ではなく、人工甘味料そのものが私たちの体に何をしているのかということです。糖代謝、腸内細菌、そして認知機能。これまで別々に研究されてきた分野が、少しずつ一つの方向を指し始めています。
もちろん、まだ分からないことはたくさんあります。それでも、科学者たちがこれほど人工甘味料を集中的に研究するようになったのは、「カロリーゼロだから安全」という従来の常識だけでは説明できないデータが積み重なってきたからでしょう。
私は現時点では、人工甘味料を毎日当たり前のように摂り続けることには慎重でありたいと考えています。水、お茶、無糖コーヒー、無糖炭酸水を日常の基本にする。それが現時点で私自身が最も納得している付き合い方です。
参考文献
(注1}Artificial and Other Non-Nutritive Sweeteners, the Microbiome, and Cardiometabolic Health
(注2)「糖尿病が強く疑われる人」は推計1,100万人―「国民健康・栄養調査」
(注3)Trends of Dietary Intakes and Metabolic Diseases in Japanese Adults: Assessment of National Health Promotion Policy and National Health and Nutrition Survey 1995-2019
(注4)Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia
(注5)Association Between Consumption of Low- and No-Calorie Artificial Sweeteners and Cognitive Decline
(注6)Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance
(注7)Use of non-sugar sweeteners: WHO guideline
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大西睦子
内科医
おおにし・むつこ 内科医師。東京女子医大卒業後、国立がんセンター、東京大病院などを経て、米ボストンに留学。現在、ナビタスクリニックにて、ボストン発ウェルネス・プログラム担当。