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血糖値をコントロールしようとする時に生じる、低血糖と高血糖。糖尿病患者は常に隣り合わせで、対応を一歩間違えると、命の危険にさらされます。
気をつけていればいいのは、糖尿病患者だけではありません。日本の糖尿病患者は約1000万人、「糖尿病予備群」も約1000万人で、6人に1人が血糖値に異常を来しているとみられます。いつ、どこで、誰がこのような症状を呈するか、分からないのです。
低血糖/高血糖時に起きる特徴的な症状とは。安全な対処法とは。糖尿病専門医の大坂貴史さんが丁寧に解説してくれました。
行動の優先順位
低血糖と高血糖、皆さんも聞いたことがあると思います。
双方とも、「本人が気づけるとき」もあれば、「本人が動けない状態で起こる」こともあり、いざという時は周囲の人の判断と行動が安全を左右します。特に重い低血糖の際は、本人が自分で糖分を摂取できないことがありますし、無理に飲ませようとすると誤嚥(ごえん)の危険もあります。
一方、高血糖だと嘔吐(おうと)や意識の変化が出てくると自宅対応の範囲を超えることがあります。
今回は、「病気の説明」よりも「その場で何をするか」に重点を置いた「ガイド」的な役割を持たせています。低血糖は「すぐ補糖(糖質を摂取する)」、高血糖は「脱水と危険サインの見極め」というように、行動の優先順位をはっきりさせています。
「ブドウ糖はどこにあるか」
「『グルカゴン(血糖値を上げる作用がある薬)』が処方されているか」
「『シックデイ(発熱や嘔吐など)』で誰に連絡するか」
などと確認しておくと安心です。普段は使わない知識でも、必要なときに迷わず動けることが、最も大きな予防になります。
糖尿病と診断されて治療を受けている人(内服薬、注射薬、インスリン、CGM=持続グルコースモニタリング、などの治療を含みます)と、家族や職場、学校といった周囲の人はとりわけ注意が必要です。また、糖尿病患者と予備群の人は少なくなく、決して人ごとではありません。社会全体で共有してほしいと考えています。
低血糖と高血糖は、どちらも放置すると危険になり得ますが、対処は正反対です。
低血糖は「すぐに糖を補う」、高血糖は「脱水と急性代謝失調(「ケトアシドーシス(血液が酸性に傾いた状態)」など)のサインを見逃さない」が基本になります。
低血糖はなぜ起こる?
低血糖は、一般的には血糖70mg/dL未満を目安に考えます(ただし個人差があります)。症状としては、冷汗▽手のふるえ▽動悸(どうき)▽強い空腹感▽脱力▽ぼんやり▽イライラ――などが典型で、重くなると意識がもうろうとしたり、けいれんや昏睡(こんすい)に至ったりすることもあります。
=ゲッティ
一方の高血糖は、数字だけで危険度を決めません。血糖が高いこと自体よりも、脱水▽嘔吐▽意識の変化▽呼吸がおかしい――などの「危険サイン」が重要です。これらがあると、「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」や「高浸透圧高血糖状態(HHS)」といった急性代謝失調に進んでいる可能性があり、早急な受診が必要になります。
低血糖は「薬の効き」と「体に入る糖」のバランスが崩れたときに起こります。食事がいつもより遅くなったり▽食事量や糖質量が不足したり▽いつもより強く、長い運動をしたり▽飲酒したり――をきっかけに起こることが多いです。また、インスリンや「スルホニル尿素薬(SU薬)」などが、低血糖を起こしやすい薬もあります。
特に注意したいのは「飲酒」です。飲酒はその場で血糖を上げることもありますが、数時間たってから肝臓の糖放出が抑えられ、低血糖が遅れて起きることがあり、夜間に気づきにくくなります。低血糖の経験がある方は、飲酒の量とタイミングを慎重にする必要があります。
こんな時、どうする? 低血糖が起きたときの対処法
低血糖の対処は、迷ったら「まずブドウ糖」です。日本糖尿病学会のガイドラインでは、「低血糖時はブドウ糖を中心とした糖質の経口摂取(ブドウ糖として5~10g)を速やかに行う」とされています。
次のように動くと安全で分かりやすいかもしれません。
①ブドウ糖を5~10g摂取します。ブドウ糖タブレットがなければ、ブドウ糖を含む清涼飲料(商品によっては人工甘味料で血糖が上がらないものもあるため、普段から確認しておくのが安心です)を150~200mL飲む方法もあります。厚労省の啓発資料でも、ブドウ糖5~10g、清涼飲料150~200mLが目安として示されています。
②15分ほど待ち、症状と血糖をもう一度確認します。それでも低かったり、症状が残っていたりする場合は、同じ量をもう一度摂取します。低血糖は一度で上がり切らないことがあるため、この「15分待機→再確認→追加」がとても大切です。
重要な例外
重要な例外があります。「ベイスン」や「グルコバイ」、「セイブル」といった、小腸の消化酵素を阻害して糖質の分解と吸収を遅らせ、食後血糖値の急上昇を抑える糖尿病治療薬「α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)」を飲んでいる人は、砂糖(ショ糖)が効きにくいことがあります。「必ずブドウ糖を使う」のが鉄則です。
低血糖が改善した後、次の食事まで時間がある場合は、再発予防のために軽い補食をとることがあります。ただし補食の内容や必要性は治療内容(インスリンの種類、SU薬の有無など)で変わるので、その人に合った「いつ、何を、どれだけ」を主治医と決めておくと安全です。
=ゲッティ
低血糖で一番危険なのは「口から無理に飲ませる」ことです。意識がもうろうとしていたり、飲み込めなかったり、けいれんしたりしている場合は、誤嚥の危険があるため、口から飲ませないでください。
この場合はまず、119番の救急要請を考えます。家族ができることだと、可能ならグルカゴンを使う選択肢があります。日本糖尿病学会ガイドラインでは、「低血糖に対してグルカゴンの筋肉注射や点鼻を行うこと」が記載されています。
グルカゴンは「肝臓から糖を出させるホルモン」で、重症低血糖の救命に役立ちます。事前に処方されている人は、家族や周囲が「どこに保管してあるか」「どう使うか」を知っていることが重要です。低血糖は本人が動けない状態で起こることがあるため、「周囲が使える設計」が安全につながります。
低血糖は「その場をしのいで終わり」ではありません。再発したり、長引いたりすることがあるため、回復後もしばらくは注意深く経過を見る必要があります。
低血糖を起こしたら必ず主治医に報告してください。薬の量やタイミングが合っていない可能性があり、同じことを繰り返すと「前ぶれなく起こる低血糖(無自覚低血糖)」につながることがあります。厚労省の資料でも、繰り返すことで前ぶれなく重症化しうる点が注意喚起されています。
運転や入浴、飲酒、長時間の外出など、低血糖が起きると事故につながる場合は、低血糖が起きた「前後の状況(食事、運動、飲酒、薬、睡眠)」をメモしておくと、次の調整が具体的になります。
高血糖の“危険サイン”
高血糖の初期症状は、口渇(のどが渇く)▽多飲▽多尿▽倦怠(けんたい)感▽体重減少――などです。これ自体もつらいのですが、さらに注意すべきは「危険サイン」です。
危険サインとして重要なのは、嘔吐▽強い腹痛▽深く速い呼吸▽意識がぼんやりする▽著しい脱水(尿が少ない、口が渇きすぎる)――などです。これらがある場合、DKAやHHSなどの急性代謝失調に進んでいる可能性があるため、早急な受診が必要です。
「SGLT2阻害薬(尿中へ糖を出す薬)」を服用している方は、血糖がそれほど高くないのにケトアシドーシスが起こり得る(いわゆる「正常血糖ケトアシドーシス」)ことがあり、シックデイでは特に注意が必要です。
この症状が起きたら、高血糖
高血糖時の自宅での対処は、「脱水を防ぐ」ところから始まります。糖が尿に出ると一緒に水分も出やすくなり、脱水が進むと血糖値はさらに上がりやすくなるからです。
まずは水分(基本は水やお茶)をこまめにとり、トイレの回数や尿量も意識します。
糖尿病治療で用いられるインスリン注射=倉岡一樹撮影
次に、血糖を普段より頻回に測ります。高血糖は「原因探し」が重要で、食事量が多かったのか▽薬を飲み忘れたのか▽感染症や発熱があるのか▽強いストレスや睡眠不足があるのか▽ステロイドを始めたのか――といった背景で対応が変わります。
インスリンを使っている人は、自己判断での大幅な増量は危険です。ただ、主治医とあらかじめ「補正のルール(補正インスリンの打ち方)」を決めている場合は、そのルールに従います。決めていない場合は、無理に調整せず、早めに医療機関へ相談するほうが安全です。特に嘔吐や脱水がある時は受診を優先します。
高血糖と低血糖が同時に起こりやすいのが「シックデイ(発熱・下痢・嘔吐・食べられない日)」です。食べられないから薬をやめる、という自己判断は危険で、特にインスリンは自己判断で中断しないのが原則です。
シックデイの基本は「脱水予防」「血糖(必要ならケトン)の確認」「早めの相談」です。糖尿病診療ガイドライン2024でも、「急性代謝失調・シックデイの章」で、DKAやHHSの評価と治療、脱水への対応などがまとめられています。
SGLT2阻害薬は、シックデイ時には休薬することが推奨されており、日本の適正使用に関する情報でも、「発熱や下痢、嘔吐、食事が十分に摂(と)れない場合は必ず休薬すること、手術前には休薬すること」が記載されています。
迷ったら「安全側」で判断します。
低血糖で救急レベルなのは、意識がもうろうとして飲めない▽けいれんしている▽呼びかけへの反応が悪い▽何度補糖しても改善しない(長引く)――場合です。経口薬による低血糖は遷延する(長引く)ことがあるため、改善しても再度悪化する場合は医療機関での観察が必要です。
一方、高血糖で至急受診なのは、嘔吐▽強い腹痛▽呼吸がおかしい(深く速い)▽意識がぼんやり▽著しい脱水がある――場合です。これらはDKAかHHSを疑うサインです。
低血糖を起こさないために
低血糖は、起こさないことが最も重要です。
外出時、いざという時の補糖用としてのブドウ糖を携帯し、食事時間がずれそうな日は事前に対策を立てます。低血糖を起こしやすい薬を使っている人は、運動量が増える日や飲酒する日、夜勤の日など「生活が揺れる日」にどうするかを主治医と一緒に決めておくと事故が減ります。
=ゲッティ
高血糖は「脱水を避け、薬の飲み忘れを減らす」ことが土台です。体調不良時の対応(シックデイルール)を事前に確認しておくことは、厚労省の資料でも重要性が指摘されています。
低血糖は「ブドウ糖(5~10g)を摂取→15分後に再確認→必要なら繰り返し」が基本で、飲めないほど重い時は、口から無理に与えず、グルカゴンと救急要請を考えます。
高血糖は「脱水を防ぐ」「危険サイン(嘔吐・意識変化・呼吸異常)を見逃さない」「シックデイは早めに測定・相談」が核です。SGLT2阻害薬を処方されている時は、シックデイ時の休薬と正常血糖ケトアシドーシスに注意します。
皆さんの治療内容(インスリン・SU薬・SGLT2阻害薬など)に合わせて、「家に置くべきもの」「外出時セット」「シックデイの連絡基準」を1ページのテンプレートにして整えておくとよいでしょう。それが「いざ」という時の支えとなり、命を救ってくれるはずです。
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大坂貴史
綾部市立病院内分泌・糖尿病内科部長
おおさか・たかふみ 京都府立医大卒業後、京都南病院と京都第二赤十字病院を経て、同大大学院で医学博士を取得。2018年から現職。同大大学院客員講師。糖尿病専門医・指導医。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。