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前回は熱中症がいかに短期間で進行し、死亡や後遺症につながるかについて述べました。熱中症の対策として、炎天下を避ける、クーラーをつける、水分をとるなどは常識として確立していますが、意外に忘れられがちなのが日焼け止め(=サンスクリーン)です。しかし、日焼け止めは肌へのトラブルも少なくなく、また、最近では海外の一部では使用禁止、さらに罰金刑まで定められているところもあり、気軽には使用できなくなってきています。そこで今回は日焼け止めの注意点を振り返り、時と場合に応じてどのような製品を使うべきかをみていきたいと思います。
「飲む日焼け止め」は効果無し
まず、以前から毎年シーズンになると質問が増える「飲む日焼け止め」について確認しておきましょう。このようなものはそのうちに消えていくだろうと私は思っていたのですが、今年も質問が多数寄せられています。結論からいえば飲む日焼け止めは使うべきではありません。なぜなら、効果がないばかりか、適切な日焼け止め対策ができなくなることにより皮膚がんを含むさまざまな皮膚疾患の発症リスクが上がるからです。米国FDA(食品医薬品局)は警告(※1)を出しています。
「白い肌よりも日焼けした肌に憧れる」と考える人は今も一定数いますが、日焼けには皮膚がんなど疾患のリスクがある他、皮膚の老化を促進し、美容的にはマイナス面が数多くあります。また、紫外線は、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、尋常性ざそう(ニキビ)、酒さなどの既存の皮膚疾患を悪化させるリスクがあります。したがって、こういう疾患がある場合は特に日焼け止め対策に力を入れるべきなのですが、「肌が弱いから日焼け止めが合わない」と訴える患者さんがけっこういます。しかし、それでも日焼け止めは使うべきで、原疾患の治療をおこなえば安全に使えるようになります。
肌トラブルは基礎疾患の治療から
なぜ「日焼け止めが合わない」と感じられるかというと、(アトピー性皮膚炎などの)基礎疾患のコントロールができていないからです。ですから、どのような日焼け止めを選ぶかを考える以前に、まずは「今ある疾患のコントロールをする」ことが重要です。実際、皮膚に炎症があれば、日焼け止めのような刺激のある物質を塗布すると炎症が余計に悪化します。まずは基礎疾患をきちんとコントロールすることが大切です。
日焼け止めを塗るときは、腕や脚の場合は容器から直接、肌に線状につける=下桐実雅子撮影
しかしながら、もともと基礎疾患のある人は、きちんと治療をして炎症がなくなっていたとしても皮膚が敏感なために「合わない」ことがあります。その場合は日焼け止めの成分に注目します。日焼け止めの有効成分は大きく二つに分けることができます。一つは紫外線散乱剤、もう一つは紫外線吸収剤です。紫外線散乱剤とは皮膚表面に塗ることで皮膚に降り注ぐ紫外線をはね返すようなイメージです。具体的には酸化亜鉛と酸化チタンがよく使われています。たいていの製品では粒子が小さくなりすぎないように製造されていて、これらの金属が皮膚の奥に吸収されることはありません。
ですから、皮膚がデリケートな場合は紫外線散乱剤だけでできている日焼け止めを選択するのが賢明です。しかし、実際は紫外線散乱剤のみの日焼け止めの製品はそう多くありません。なぜか。これは実際に使用してみるとあきらかで、後述する紫外線吸収剤でできた日焼け止めに比べると、べとついて、伸びが悪くて、肌が白くなって見栄えが悪い、一言で言えば「使いにくい」のです。
成分により使用禁止のビーチも
しかし、以前に比べれば品質改良が重ねられているのか、最近では随分と使いやすく進化してきています。それに、紫外線散乱剤だけでできている日焼け止めには「環境に優しい」というメリットがあります。実際、紫外線散乱剤のみでできた日焼け止めしか使えない地域もあります。日本人になじみのある地域で言えば、米ハワイ州のマウイ島(※2)とパラオ(※3)が有名です。紫外線吸収剤が配合された日焼け止めは、使えないだけでなく、罰金が科せられる可能性もあります。実際に罰金を支払ったという話は聞きませんが、そのような規定がある以上は使うべきではないでしょう。
肌が丈夫な人は、日本国内で使用する限りにおいては紫外線吸収剤でできた日焼け止めで問題はありません。吸収剤は散乱剤とは異なり、皮膚にあたる紫外線をはね返すのではなくその物質が吸収することにより皮膚へのダメージを防ぎます。色調は地肌になじみ、塗り心地もよく使いやすいのですが、先述したように刺激が強く肌に合わない人もいます。海外の一部の国や地域で紫外線吸収剤が禁止される最大の理由はサンゴにとって有害だからです。ならばサンゴだけでなくヒトにも有害性があるということはないのでしょうか。
実際、ヒトへの有害性が指摘され現在では使われなくなった紫外線吸収剤があります。通称PABAと呼ばれるパラアミノ安息香酸です。PABAは1990年代までは日焼け止めの成分としてよく使われていました。当時の代表的な紫外線吸収剤であったと言えるでしょう。ところが動物実験で発がん性が指摘されるようになり、次第に使われなくなっていき、国によっては法的に禁止されるようになりました。日本でははっきりと禁止する法律は見当たりませんが、おそらく現在流通している日本製の日焼け止めにPABAが含まれているものはありません。
米ハワイ州マウイ島での日焼け止め規制を訴えるポスター=マウイ郡ホームページより
では、他の紫外線吸収剤は安全なのでしょうか。ここは意見が分かれるところで、例えばハワイ(※4)では、州全体でOxybenzone、Octinoxateと呼ばれる紫外線吸収剤を使用した日焼け止めの販売・流通が禁止されています(先述したようにマウイ島ではすべての紫外線吸収剤を利用した日焼け止めの販売・流通・使用を禁止)。さらに、OctocryleneとHomosalateも推奨されないとされています。タイ(※5)でも、Oxybenzone、Octinoxate、さらに4-methylbenzylidene camphorという物質を含む日焼け止めは国立公園内に持ち込み・使用ができません。他には、カリブ海のオランダ領ボネール島(※6)、米領バージン諸島(※7)、(米フロリダ州の)キーウェスト(※8)などでも制限があります。
最新の紫外線吸収剤は
他方、安全性がかなり確立されている紫外線吸収剤もあります。それが、Bemotrizinolで、化粧品表示名は「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン=BEMT」とされる物質です。Bemotrizinolは粒子が大きく皮膚に吸収されることが少なく安全性が高いと言えます。さらに、光があたっても分解されにくく、UVA・UVBの双方を長時間強力にブロックすることができるとされています。2026年6月9日、米国FDA(※9)はBemotrizinolを「GRASE」として承認しました。「GRASE」とは「Generally Recognized As Safe and Effective」の略語で、「安全性と有効性が認められた物質」のことを指します。GRASEとしてFDAに承認されている紫外線吸収剤は現在Bemotrizinolだけです。
ならば、Bemotrizinolだけでできている日焼け止め、またはBemotrizinol+紫外線散乱剤の日焼け止めを選びたくなりますが、残念ながらそのような製品は見当たりません。それに、上述したように、マウイ島とパラオではBemotrizinolも禁止されています。
他方、国内で使うには制限がありませんから、安全性・有効性が確立されているBemotrizinolが使われている日焼け止めは使用する価値があると言えるでしょう。しかし、日本製でBemotrizinolが主成分のひとつとして配合されている日焼け止めの多くには、OxybenzoneやOctinoxateなど海外の一部で禁止されている成分も含まれています。ということは、どこで使用するかにより日焼け止めを使い分けるのが賢明だと言えそうです。
最後に日焼け止めについてまとめておきましょう。
・「飲む日焼け止め」は有効性が確立されていない(使うべきでない)
・日焼け止めの成分は「紫外線散乱剤」と「紫外線吸収剤」に分けられる。安全なのは紫外線散乱剤で、副作用が少ない。環境にも優しく世界中ほとんどで使用できる。しかし、紫外線吸収剤に比べ使い勝手がよくない
・紫外線吸収剤のなかで最も安全性が高いのはBemotrizinol(ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン=BEMT)。ただし、Bemotrizinol単独の製品は見当たらない
・海外の国や地域によっては紫外線吸収剤が含まれる日焼け止めが使えず、罰金刑が科せられる可能性もある。特に、マウイ島、パラオでは一切の紫外線吸収剤が使えない。タイ、ボネール島、バージン諸島、キーウェスト(フロリダ)などでも一部の紫外線吸収剤が使えない。よって国や地域によって日焼け止めを使い分けるのが賢明
※1 Statement from FDA Commissioner Scott Gottlieb, M.D., on new FDA actions to keep consumers safe from the harmful effects of sun exposure, and ensure the long-term safety and benefits of sunscreens
※2 NEW MINERAL SUNSCREEN LAW: MAUI and BIG ISLAND, What kind of sunscreen is allowed on Maui and the Big Island?
※3 The Republic of Palau Adopts the World’s Strictest National Sunscreen Standard
※4 Reef-Safe Sunscreen in Hawaiʻi: What’s Legal, What Works and What to Know Before You Go
※5 Coral-damaging sunscreens banned in marine parks
※6 Bonaire Says “No” to Oxybenzone
※7 Sustainable Travel in the U.S. Virgin Islands
※8 Key West Follows Hawaii’s Lead, Bans Sale of Certain Sunscreens to Protect Coral Reefs
※9 FDA Expands Sunscreen Options for the First Time in 20 Years
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。