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体重計に乗るのが怖い。歩数を測るアプリは導入してあるが、見なくなって久しい。ましてや、そういった「記録」はしていない。また、家計簿や収支表をつけた方がいいのはわかっていても、なかなか始められない――。
しかし、行動科学では、この「測る・記録する」という地味な行為こそ、最も確実に行動を変える技術の一つだと考えられています。しかも、特別な才能も、強い意志もいりません。今回は、「測るだけ」の科学をご紹介します。
進捗確認→報告・公開で効果倍増
シェフィールド大学のハーキンらは、自分の進み具合をこまめに確認すると、目標は達成しやすくなるのかどうかを調べた実験138件、参加者計約2万人分のデータをまとめて、分析しました(※1)。
結果、進捗(しんちょく)のモニタリングを促された人たちは、そうでない人たちに比べて、目標の達成度が明らかに高かったのです。効果の大きさを表す数値(効果量)は0.40。連載第3回でご紹介したif-thenプランニング(0.65)には若干劣るものの、方法としては十分に「効く」と評価される水準です。
分析によると、さらに効果が大きくなる条件としては、進み具合を頭の中で確認するだけでなく、紙やアプリに物理的に記録した場合、そして結果を人に報告したり公開したりした場合に、効果はいっそう大きくなっていました。「書き残す」「人の目に触れさせる」というひと手間が、効果を何倍にも増幅するのです。
食事日記をつけただけで
健康の分野では、この効果を劇的に示した研究があります。米国のカイザー・パーマネンテ健康研究センターのホリスらが行った、1685人の過体重・肥満の人たちを対象にした減量プログラムの研究(※2)です。
参加者は約6カ月間、食事内容の改善や運動に取り組み、平均で約6キロの減量に成功しました。ここで研究チームが注目したのが、「食べたものを書き出す」という習慣です。毎日食事記録をつけていた人たちは、まったく記録をつけなかった人たちに比べて、体重の減少幅がおよそ2倍だったのです。
=ゲッティ
ちなみに、参加者たちも毎日完璧に記録できていたわけではありません。記録をつけた日数は、平均すると週に3.7日ほどでした。それでも、記録が多い人ほど、体重はよく減っていました。
記録自体が脂肪を燃やしてくれるわけではありません。それでも差がつくのは、書くことで「なんとなく口に入れていたもの」が見えるようになるからです。仕事の合間のクッキー、味見のひと口、寝る前の一杯。私たちの行動の多くは、連載第1回でお話しした通り、考えるより先に動く「自動運転」です。記録は、その自動運転の走行ログを、意識の目の前に引きずり出してくれるのです。
歩数計で1日2500歩増
もうひとつ、さらに手軽な例を挙げてみましょう。スタンフォード大学のブラバタらは、歩数計を使った研究26件、参加者2767人分をまとめて分析しました(※3)。
結果、無作為化比較試験(くじ引きのように参加者を分けて比べる、信頼性の高い実験)では、歩数計を身につけた人は、持たなかった人たちより歩数が1日あたり約2500歩増えていました。距離にすればおよそ1.5〜2キロ。研究全体で見ると、参加者の身体活動量は元の水準から約27%増えていました。しかも、体格指数(BMI)や血圧まで、わずかながら有意に改善していたのです。
歩数計は、歩けと命令してきません。ただ数字を見せてくるだけです。にもかかわらず、人は歩くようになる。今や、スマートフォンやスマートウオッチに歩数計機能が最初から入っていますから、この研究の知見は、ポケットの中で出番を待っているようなものです。
=ゲッティ見るだけで行動が変わる理由
理屈は、カーナビを思い浮かべるとわかりやすいと思います。カーナビは、現在地と目的地のズレを常に把握しているから、ルートを外れた瞬間に軌道修正できます。ところが人間の自動運転(習慣)には、この「現在地の表示」がありません。自分では「そんなに食べていない」「けっこう歩いている」つもりでも、実際の走行記録は別物です。
記録やモニタリングは、この現在地と目標のズレを見えるようにする行為です。ズレが見えれば、脳は自然と修正を始めます。逆に言えば、見えていないズレは修正のしようがありません。意志が弱いから軌道修正できないのではなく、ナビの画面を見ていないだけなのです。
完璧な記録より「続く記録」を
ただ、記録こそ三日坊主の定番でもあります。だからこそ、これまでの連載でお伝えしたコツの出番がやってきます。
まず、ハードルを極限まで下げること。食事はカロリー計算などせず、写真を撮るだけでも立派な記録です。体重は毎朝1回乗って、それも写真に撮る。写真に撮る方が入力したり、記録を書いたりするよりもはるかに楽です。連載第1回でお伝えした通り、1日抜けたくらいで習慣化のプロセスは壊れません。記録が途切れたら、また今日から再開すればいいのです。
次に、連載第3回でご紹介したif-thenプランニングと組み合わせること。「もし朝トイレに行ったら、その足で体重計に乗る」「もし夕食を撮り終えたら、そのままアプリに保存する」。すでにある毎日の行動に、測る行為をくっつけてしまえば、記録そのものが自動運転になります。
そして、できれば結果を人に見せること。先ほどのメタ分析が示した通り、報告や公開は効果を増幅します。家族や友人と体重計の数字を報告し合う、SNSで歩数をつぶやく。こういう行動を組み合わせることで、記録は続きやすく、行動は変わりやすくなります。
まず一つ「測る」を決めよう
意志を鍛える必要はありません。環境を整え(第1回)、悪いきっかけを断ち(第2回)、行動を一文で予約し(第3回)、そして現在地を測る(第4回)。習慣づくりの道具はとりあえず、これで一旦、一通りそろいました。
今日、一つだけでかまいません。あなたが変えたいことについて「何を測るか」を決めて、測る道具を目に入る場所に置いてみてください。体重計を洗面所の真ん中に置いたり、歩数計アプリをホーム画面の一等地に据え直す。数字は、あなたを責めるためではなく、あなたの現在地を教えるためにあります。ナビの画面さえ見えていれば、人は自分で、ちゃんと軌道修正できるのです。
(※1)Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229.
(※2)Hollis, J. F., Gullion, C. M., Stevens, V. J., Brantley, P. J., Appel, L. J., Ard, J. D., Champagne, C. M., Dalcin, A., Erlinger, T. P., Funk, K., Laferriere, D., Lin, P.-H., Loria, C. M., Samuel-Hodge, C., Vollmer, W. M., & Svetkey, L. P. (2008). Weight loss during the intensive intervention phase of the weight-loss maintenance trial. American Journal of Preventive Medicine, 35(2), 118–126.
(※3)Bravata, D. M., Smith-Spangler, C., Sundaram, V., Gienger, A. L., Lin, N., Lewis, R., Stave, C. D., Olkin, I., & Sirard, J. R. (2007). Using pedometers to increase physical activity and improve health: A systematic review. JAMA, 298(19), 2296–2304.
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