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日本人の平均寿命は女性が約87.13歳、男性が約81.09歳(2024年)で世界最高水準です。近年は人生の長さだけでなく、人生の質も良くしようと、自立して生活できる「健康寿命」を延ばすことに注目が集まっています。元気でいるために時間栄養学をどう活用すべきか、日常に加えたい一工夫を紹介します。
目や耳より先に老化が始まるのは?
平均寿命と健康寿命の差とは、日常生活に何らかの制限が出てしまう「不健康な期間」の長さ。いわゆる要介護状態の期間に該当します。厚生労働省によると、22年の健康寿命は男性が72.57歳、女性が75.45歳。同年の平均寿命(男性81.05歳、女性87.09歳)と比較すると、男性で8.48年、女性で11.64年の要介護期間が生じてしまっています。「元気に長生き」は、この期間をいかに短くするかにかかっているのです。
しかし厄介なことに、老化というのは自覚がなくても始まっています。分かりやすいのは老眼。40歳前後で近くが見えづらいことに気付く人も少なくないでしょう。
聴力も30代から低下し始めます。65歳を過ぎると、音は聞こえていても何を言われているか分からない加齢性難聴を自覚する人が急増します。
30代あたりから低下し始めるのは筋肉量も同様です。40代になると代謝の低下や中年太りを気にする方が増えてきます。
骨粗しょう症予防に骨量を測定=高知市文化プラザかるぽーとで2012年10月7日午後0時27分、藤田宰司撮影
しかし、それ以上に老化が早いのは骨。何と20代から下り坂にさしかかります。カルシウムを骨にためられるピークが10代後半から20歳前後になるためです。その後はためることが難しくなり、放置していれば骨粗しょう症のリスクが上がります。女性は50歳前後の閉経を境に、男性も60代以降、特に70歳以上でリスクが高まるのです。65歳では3人に1人が骨粗しょう症になると推定されているので、自覚症状がなくても骨密度を測定して対策をするのが良いでしょう。
急激な老化は44歳と60歳で訪れる
米国の研究では、44歳ごろと60歳ごろに急激に老化が加速することが報告されています。特に40歳ごろは心血管疾患、脂質代謝、アルコール代謝の変化が起こりやすいため、体重のコントロールがうまくいかなかったり、お酒が弱くなったりする方が増えるでしょう。健康診断の数値に変化が出やすくなる年代でもあります。
60歳になると、ご飯やパン、麺など炭水化物の代謝や免疫の調節能力が変化しやすくなります。風邪を引きやすくなる上、一度かかると長引いたり、血糖値が安定しなかったりする背景には、こうした変化が関係しているかもしれません。
寝たきりや転倒のリスクをチェックする
では、実際に自分の体がどれだけ変化しているのか。次の方法で簡単にチェックすることができます。
○指輪っかテスト
筋肉量が減少し、筋力が低下するサルコペニアのリスクを測る方法です。
出典=東京大学 高齢社会総合研究機構「フレイル予防ハンドブック」、飯島勝矢、田中友規ら(Tanaka T,Iijima K,et al.GGI 2018)
①両手の親指と人さし指で「指輪っか」を作る。
②椅子に座って足を地面につけたまま、膝を90度に曲げる。
③前かがみになって、利き足ではない方のふくらはぎを「指輪っか」で囲む。
囲めない人、ちょうど囲める人はサルコペニアのリスクが低くなりますが、隙間(すきま)ができる人は高リスクになります。それだけ筋肉量が減少していると考えられるからです。
○片足バランステスト
足の筋力や動的バランス能力を測るためのもので、長くできる人ほど歩行中に転倒しにくいことが分かっています。
バランス能力をみる片足立ち時間の測定=東京都老人医療センターで2000年撮影
①素足になる。
②両手を腰に当て、左右どちらでも立ちやすい側の足で片足立ちになってみる。
③②で支持脚が決まったら膝を伸ばし、もう片方の足を前方に、床から5㎝くらい上げる。上げた足が支持脚や床に触れたり、支持脚の位置がずれたり、腰に当てた手が腰から離れたりした時までの時間を2回測り、長い方(最長120秒)を記録する。
15秒未満だと、運動器不安定症(骨や関節、筋肉、神経などの運動器の疾患や加齢により、バランス能力や歩行能力が低下し、転倒や閉じこもり、寝たきりになりやすい状態)のリスクが高まる、または移動機能の低下が認められます。
平均値は研究によって大きく異なりますが、1例として06年に厚生労働省が発表したデータがあります。それによると65〜69歳は40.8秒、70〜74歳は32.5秒、75〜79歳は25.5秒、80歳以上は16.2秒という結果になっています。
五感を使う料理は全身のトレーニング
「元気で長生き」の基本になるのは体力。その基礎を作ってくれるのが栄養で、生涯欠かすことのできないものです。今はスーパーでもコンビニでも総菜がたくさん売られるようになりましたが、実は料理こそが健康寿命を延ばす、うってつけのトレーニングになります。
「何を作るか決める」「食材を切る」「味付けのタイミングを考える」「油や塩分の量を意識する」といった作業は脳をフル回転させ、計画性や集中力を高めます。さらに野菜を切るリズムを感じ、肉が焼ける音を聞き、おいしそうな匂いをかぐ――といった行為は五感を使うため、脳を心地よく刺激するのです。頭と手を同時に使い、かつ立って動くことで足腰の筋肉も使うため、全身が関わってきます。
五感を使う料理はトレーニングになる=東京都中央区で2022年4月28日、武市公孝撮影
時には外食やテークアウトをする日があっても構いません。新しいお店で初めて食べる味わいや食材もまた、五感を心地よく刺激して脳を活性化させてくれるでしょう。普段、家庭では取れない栄養を摂取することにもつながります。
「筋肉を作る肉」「骨を強くする魚」「体を整える野菜」と、役割はそれぞれ。偏らないことが大事と心得てください。
食事の間隔が短すぎると?
もちろん栄養を意識するだけでなく、いつ食事をするかによっても健康への影響は変わってきます。体内時計に合わせて食べると、健康寿命の延伸につながるのです。
体内時計とは、私たちの体に備わっている24時間周期のリズムで、血圧や体温、睡眠などをコントロールしているもの。ただ、1日24時間の地球時間と全く同じではないため、ずれが生じ、リセットしないでいれば時差ぼけしたように体調が悪くなってしまいます。リセットしてくれるものには食事があるため、日々の食習慣が非常に重要になってくるのです。
例えば、やせようとして1日1食で過ごす方もいますが、心血管死のリスクが大幅に上昇するという研究結果があります。米国の研究では、1日3食の人に比べ1食の人では、心血管死のリスクが83%も高いことが分かっています。全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクも30%高くなるというのです。
では、1日3食なら安心かというと、そうとも言い切れません。3食の人でも食事の間隔が4.5時間以下と短すぎる場合は、全死亡リスクを17%ほど高める可能性があるとされています。欠食は消化吸収の負担を高めるだけでなく、血糖値の急上昇や心臓・血管へのダメージを招きます。食事の回数は極端に減らさず、1日3食を基準として、間隔も5時間ほど空けるようリズムを作ると良いでしょう。
朝食時間が遅いほど高リスク
体内時計をリセットするには朝の過ごし方がポイントになります。中でも朝食はとても大切。起床後1時間以内に取るよう意識してください。
9時半以降に朝食を食べる人は、8時半前に食べる早い人に比べて死亡リスクが20%高くなり、また朝食を取る時間が1時間遅くなるごとに死亡リスクも高まるという研究報告があります。加えて朝食を抜く習慣がある人は、心血管疾患による死亡リスクが40%高まると言われています。
特に高齢者の場合、朝食でたんぱく質をしっかり取ることが大切です。筋肉を維持し、結果として要介護状態を防ぎ、健康寿命を延ばすことにつながります。卵や豆腐、納豆、サラダチキン、サバ缶などを活用すると良いでしょう。納豆卵かけご飯やツナサンド、サバ缶をかけた温玉うどん、豆腐と油揚げのみそ汁、バナナを加えたヨーグルトなどがお勧めです。
朝食にお勧めのバナナヨーグルト=2010年4月収集代謝が上がるランチタイム
午後は1日の中で最も代謝が上がる時間帯。昼食で午後のエネルギーを補給しつつ、眠気や血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を抑える工夫をすることが重要になります。
昼食を抜いて1日2食にすると、3食の人と比べて全体の死亡リスクが12%上がるというデータがあります。昼食抜きで空腹時間が長くなると、夜の血糖値をさらに上げやすくしてしまうからでしょう。昼食の時間帯は脂肪をため込みにくいので、高脂質・高カロリーなものでも無理に我慢をする必要はありません。
ランチタイムになり、行列を作るTuringの社員たち=東京都大田区で2026年3月27日午後0時17分、森田采花撮影夜は食べない方がいい?
夕食では「寝ている間に体を修理する材料」を十分に補給しつつ、睡眠の邪魔をしないことが大切になります。「夜は寝るだけだから食べない方が体に良い」と考え、夕食を抜く方もいますが、健康寿命への影響は否定できません。夕食を抜くと、3食の人と比べて全体の死亡リスクが16%上がるというデータもあるのです。
昼食から翌朝の朝食まで半日以上何も食べないでいると空腹時間が長くなり、血糖値の急上昇が生じやすくなります。それに加えて、たんぱく質やビタミンが不足すれば成長ホルモンが十分に分泌されず、就寝中に行われるはずの細胞や筋肉の修復・再生もままならなくなります。結果として肌や髪が衰え、疲労もたまりがちになって、健康寿命を縮める原因になり得るのです。
キノコは就寝中の体の修復をスムーズにしてくれる=2018年9月5日、根岸基弘撮影
よって夕食を「抜く」のではなく、体に負担をかけないものを適量食べるのが良いでしょう。揚げ物や炒め物、血糖値を上げやすい主食(ご飯、パン、麺)は控えめに、逆に成長ホルモンの材料となる良質なたんぱく質(鶏ササミ、青魚、大豆製品など)や、体の修復をスムーズにするビタミン・ミネラル(緑黄色野菜、キノコ類など)は十分に取るよう意識してみてください。
夕方におにぎり、夜にはおかずを
夕食は就寝の2〜3時間前までに、遅くとも20時くらいまでに終えるのが理想です。どうしても遅くなる場合は、夕方におにぎりやサンドイッチなどを少し食べ、夜に魚やスープなどのおかずを食べて「分食」にするのが賢明です。
入浴は食後1時間ほどしてから、ゆっくり体を温めてください。お風呂につかってから1〜2時間後は体温が下がるため、このタイミングで寝床に入ると自然と深い眠りにつくことができます。ぐっすり眠れば成長ホルモンが十分に分泌され、前述した通り、夕食を材料に細胞の再生と修復が行われます。朝には疲れも取れ、すっきり目覚めることができるでしょう。
誰しも老化を止めることは難しく、加齢と共に体内時計がずれやすくなることは否めません。それでも生活習慣の一工夫で老化を緩やかに、穏やかにすることは可能です。健康寿命を延ばす第一歩として、まずは朝食を毎日8時半までに食べることから始めてみてはいかがでしょう。
<参考文献>
・曽根照喜,福永仁夫:我が国における骨粗嘉症有病率と国際比較.日本臨床 62(S2):197-200, 2004.
・Xiaotao Shen,Chuchu Wang,Xin Zhou,Wenyu Zhou,Daniel Hornburg,Si Wu & Michael P.Snyder.Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging.Nature Aging volume 4,pages1619–1634 (2024)
・平成27年度 老人保健健康増進事業等補助金 老人保健健康増進等事業 口腔機能・栄養・運動・社会参加を総合化した複合型健康増進プログラムを用いての新たな健康づくり市民サポーター養成研修マニュアルの考案と検証(地域サロンを活用したモデル構築)を目的とした研究事業 事業実施報告書.平成28年3月 東京大学 高齢社会総合研究機構 主任研究者 飯島勝矢
・新体力テスト実施要項(65歳~79歳対象)文部科学省
・Yangbo Sun, MD, PhD ∙ Shuang Rong, PhD ∙ Buyun Liu, MD, PhD ∙Yang Du, MS ∙Yuxiao Wu, MS ∙ Liangkai Chen,PhD ∙ Qian Xiao, PhD ∙ Linda Snetselaar, PhD ∙ Robert Wallace, MD ∙ Wei Bao, MD, PhD.Meal Skipping and Shorter Meal Intervals Are Associated with Increased Risk of All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality among US Adults.Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics.Volume123,Issue 3P417-426.E3March 2023.
・Hassan S.Dashti,Chloe Liu,Hao Deng,Anushka Sharma,Antony Payton,Asri Maharani & Altug Didikoglu.Meal timing trajectories in older adults and their associations with morbidity,genetic profiles,and mortality.Communications Medicine volume 5,Article number:385 (2025)
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望月理恵子
管理栄養士
もちづき・りえこ 調剤薬局、健康食品会社を経て株式会社Luce代表。健康検定協会理事長。山野美容芸術短大講師、小田原短大講師、日本臨床栄養協会評議員、小田原銀座クリニック栄養顧問を兼務。著書に「やせる時間に食べてみた!」ほか多数