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日本は今も世界有数の長寿国ですが、かつてのように「長寿国といえば日本」といった独占的なイメージは薄れつつあります。シンガポール、スペイン、イタリアなど長寿国が増えたことで、日本の相対的な位置づけは以前ほど突出していません。その結果、「日本食こそが長寿の秘訣(ひけつ)」という見方も以前ほどは支持されなくなりました。過去数十年の国際的な文献を振り返ると、大規模研究で一貫して健康効果が裏付けられている食事パターンはDASH食(高血圧予防食)や地中海食であり、日本食の優位性を示す報告はさほど目立ちません。最近「DASHを最も忠実に実践していた人々は、認知機能低下のリスクが41%低かった」という大規模研究が発表されました。そこで今回はDASHを振り返り、その魅力を探りたいと思います。
中年期のDASHで認知機能低下リスクが……
「DASHが認知機能低下リスクを41%下げる」とするその研究は医学誌「JAMA Neurology」2026年2月23日号(オンライン版)に「食事パターンと認知機能の指標」(※1)というタイトルで報告されました。研究者らは「中年期(45~54歳)にDASHを忠実に摂取していた場合に最も効果が高い」としています。研究の対象者は15万9347人の成人で、六つの食事パターンが体系的に評価されました。これは「対象者を六つのグループに分けて……」という方式ではなく、「対象者の食事を六つの指標で評価する」という方法で、六つのスコアを比較検討したものです。六つのスコアは次の通りです(右の日本語は私の”超訳”です)。
・DASH diet:Dietary Approaches to Stop Hypertension diet score ≒ 高血圧を予防するための食事のスコア
・AHEI-2010:Alternative Healthy Eating Index ≒ 総合的健康食の指標
・hPDI:Healthy Plant Based Diet Index ≒ 健康的な植物性食品中心の食事指標
・PHD:Planetary Health Diet Index ≒ 地球を守る健康食の指標
・rEDIH:Reduced Empirical Dietary Indices for Hyperinsulinemia ≒ 高インスリン血症を起こしにくい食事指標
・rEDIP:Reduced Empirical Dietary Inflammatory Pattern ≒ 炎症を起こしにくい食事パターン
対象者の食事を六つのスコアのそれぞれで分析してみると、「DASHの得点が高かった人が最も認知機能低下のリスクが低かった」というのが結論です。では、DASHは他の五つとどのように違うのでしょうか。実はこれら六つの食事指標はかなり似ています。どのスコアも概して言えば、緑黄色野菜、果物、全粒穀物、豆類、魚などを積極的に摂取し、加工食品や揚げ物、砂糖や甘い飲料、精製穀物、高脂肪食品などを避ければスコアが上がります。ただ、DASHには一つ、他のスコアではさほど重視されていない項目があります。それが「塩分摂取」です。DASHは高血圧を予防するために考案された食事ですから塩分の許容量が厳しく設定されているのです。
厳しい塩分制限、それに加えて……
DASHを考案したのは米国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)です。そのNIHのウェブサイトにDASHを分かりやすくまとめたページ(※2)があります。ここにDASHが規定する塩分が記載されています。その量はナトリウムで2300mg、塩に換算すると(2.54をかけて1000で割ります)5.8gとなります。「1日のナトリウム摂取量を2300mg(塩分5.8g)から1500mg(塩分3.8g)に減らすと、血圧はさらに低下します」という注釈もあります。
=ゲッティ
ここで「1日の塩分5.8g」について考えてみましょう。日本人の好きな麺類(うどん、そば、ラーメンなど)は汁まで飲み干せば1杯で軽くこの数字を超えます。みそ汁1杯約2g、梅干し1個約2gですから、1日の摂取塩分総量を5.8g以下におさえるのは日本食を好む人々にとっては至難の業です。厚生労働省はそれを分かっているからなのか、「日本人の食事摂取基準」の2025年版では、塩分の1日あたりの目標値として男性7.5g未満、女性6.5g未満としています。ただし、医療のガイドラインではこれよりも厳しく、例えば「高血圧管理・治療ガイドライン」では男女とも「1日あたり6g未満」とされています。
心血管系疾患のリスクも低下
DASHが優れているのは単に減塩をうたっているからだけではありません。また、単に野菜や果物が豊富だからでもありません。興味深い有名な古典的研究を紹介しましょう。論文は1997年の米医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された「食事パターンが血圧に及ぼす影響に関する臨床試験」です。対象者は収縮期血圧160mmHg未満、かつ拡張期血圧80~95mmHgの 459人で、三つのグループに無作為に分けられ、次の3種のいずれかの食事を8週間にわたり摂取しました。重要なポイントは、3種類の食事のいずれもが塩分の量が同じ(1日の塩分7.6g)だったという点です。
・DASH(ただし塩分は現在のDASHより多い)
・果物・野菜が豊富な食事
・対照食(典型的な米国食)
結果、2週間で大きな効果があらわれました。中でも高血圧の被験者(133人、収縮期血圧140mmHg以上、かつまたは拡張期血圧90mmHg以上)では、DASHのグループは他の二つのグループより有意に大きな降圧(収縮期血圧約11mmHg、拡張期約5.5mmHg)を示したのです。では、この研究で「DASH」と「果物・野菜が豊富な食事」はどこに違いがあったのでしょうか。共に塩分摂取量は同じで、果物・野菜も豊富ですから、食物繊維、カリウム、マグネシウムの量には差がないはずです。違いは、DASHでは「低脂肪乳製品が摂取されている」こと、もうひとつは「脂肪(特に飽和脂肪酸)が少ない」ことです。
筋肉量を維持してダイエットも
塩分に話を戻しましょう。先述したように、この論文では1日あたりの塩分が7.6gと、現在のDASHより多くなっています。では塩分摂取量を減らせばどうなるでしょうか。実はこの論文には「続編」があります。2001年にやはり「New England Journal of Medicine」に掲載された「食事中の塩分削減および高血圧予防のための食事療法(DASH食)が血圧に及ぼす影響」(※4)です。3通りの塩分摂取量(高・中・低)で血圧への影響が検証されました。結果、DASHは、いずれの塩分摂取量でも対照グループと比べると収縮期血圧を有意に低く保っていましたが、塩分摂取量が低いほどその差は顕著でした。つまり同じDASHでも、塩分量を少なくすればするほど降圧幅が大きくなるのです。
=ゲッティ
DASHは文字通り高血圧を予防する食事ですから、認知症リスクを下げるだけでなく、心血管系疾患の発症リスクを低下させます。医学誌「Nutrients」に2019年に大規模調査のメタアナリシス「DASH食パターンと心代謝系アウトカム:システマティックレビューおよびメタ解析のアンブレラレビュー」(※5)が掲載されました。DASHを摂取していれば、心血管系疾患のリスクを20%、脳卒中のリスクを19%下げると報告されています。
日本食を食べるときには……
DASHにはダイエット効果もあります。しかも、過去のコラム「運動は『スーパードラッグ』! ウオーキングにプラスしたい大切なこと」で紹介したGLP-1受容体作動薬などでのダイエットで生じる「筋肉量の低下」は起こさないダイエットです。論文を紹介しましょう。こちらも2019年の「Nutrients」に掲載された「カロリー制限を伴うDASHは、肥満高齢者の体脂肪を減少させ、筋力を維持する」(※6)です。研究の対象者は65歳以上の肥満成人36人(男性15人女性21人)で、12週間にわたり、赤身肉を含むDASHを1日1800kcal(毎日126gの肉を3食に均等配分)摂取しました。12週後、体重は6.3%の減少、体脂肪率は2.5%減少、絶対脂肪量は4.4kg減少しました。一方、握力やバランス、安静時のエネルギー消費量は良好に維持され、立ったり座ったりする運動速度は改善しました。研究者は「DASHが、肥満の高齢者において体脂肪量を減らしつつ筋力を維持するための手段となり得る」と結論づけています(この研究で食されたDASHは従来のDASHに比べ赤身肉が多い点に注意が必要です)。
このようにみてみると、心血管系疾患や脳卒中のリスク及び認知機能低下リスクを下げ、(赤身肉を加えれば)筋肉量を維持したままダイエットができるDASHは最強の食事のように思えます。では、同じように健康的とされる地中海食、そして日本食はどうなのでしょうか。現時点では、これらの優劣を評価した大規模調査は見当たりません。しかし、DASHの最大の特徴が「塩分制限」なのですから、日本食を食べるときにはいつも「いかに塩分を減らすか」を考えるべきでしょう。実際、私は日々患者さんにそのような助言をしています。
※1 Dietary Patterns and Indicators of Cognitive Function
※2 DASH Eating Plan
※3 A Clinical Trial of the Effects of Dietary Patterns on Blood Pressure
※4 Effects on Blood Pressure of Reduced Dietary Sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) Diet
※5 DASH Dietary Pattern and Cardiometabolic Outcomes: An Umbrella Review of Systematic Reviews and Meta-Analyses
※6 A Calorie-Restricted DASH Diet Reduces Body Fat and Maintains Muscle Strength in Obese Older Adults
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1991年関西学院大社会学部卒、2002年大阪市立大医学部卒。タイのエイズポスピスでのボランティアなどを経て、07年クリニック開設。大阪公立大非常勤講師。プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。