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健康診断で標準体重をオーバーしていると、保健指導の対象になりかねません。それを避けようと、健康診断前に慌ててダイエット(減量)する人は多いでしょう。体重を減らしたが、すぐ元の体重に戻ってしまった、という話もしばしば耳にします。そうした方々の多くは「元の体重に戻っただけ」と考え、また翌年の健診前にも同じような「土壇場ダイエット」とリバウンドを繰り返してしまいがちです。たしかに体重計の数字だけ見ると、単に「元に戻っただけ」ですが、数字の裏側では「体の中身(体組成)」が大きく変わっています。詳しく解説しましょう。
なぜリバウンドするのか
なぜ減量後の体重を維持できず、元に戻ってしまうのか。
「おなかすいた」という飢餓感や猛烈な食欲を「自分の意志の弱さ」のせいだと思っているかもしれません。しかしこれは精神論の問題ではありません。人類が進化の過程で獲得してきた強力な生体防御反応(ホメオスタシス)の結果なのです。
減った体重が2㎏でも私たちの脳は「生命の危機到来」と判断し、何とか元に引き戻そうとするシグナルを脳から発します。この飢餓サバイバルシステムを主導するのが、強力な摂食抑制やエネルギー消費高進をもたらすホルモン「レプチン」と、主として胃から分泌される空腹ホルモン「グレリン」です。
レプチンは脂肪細胞から分泌され、体内のエネルギー備蓄量を視床下部に伝えます。通常は食欲を抑える神経系を活性化しますが、減量や絶食によって血中レプチン濃度が低下すると、脳はこれをエネルギー不足の信号として受け取り、食欲を高める信号を発します。さらに甲状腺系や交感神経系などを介して消費エネルギーを抑えるように働きます。つまり、短期間ダイエットは「食欲ブレーキが利きにくくなる状態」を作り出してしまうわけです。
またグレリンは通常、食前に分泌されて食欲を促し、食後には低下します。習慣的な食事時刻、体内時計、摂取した栄養素、血糖・インスリンなどで分泌量が調節されるため、普段と異なる食習慣を続けたり炭水化物の摂取量が減ったりした場合には分泌が増えるのです。つまり、急激なダイエットでは、「アクセル(グレリン)全開、ブレーキ(レプチン)不十分」の状態が起こるために「食べたい」という強い欲求を感じ、意志の力だけであらがうことが難しくなるのです。
=ゲッティ
さらに厄介なことに、摂取エネルギーが減少すると、体は「飢餓状態」と認識し、消費エネルギーを抑える方向に適応します(適応性熱産生;adaptive thermogenesis)。これも体重増加につながります。
また、減量後の体格では、以前に比べ基礎代謝や日常の身体活動に伴うエネルギー消費は当然少なくなります。そのため、摂取エネルギーが減量後の消費量を上回り、体重が戻りやすくなります。これらいくつもの要素が急速なリバウンドの背景にあります。
リバウンド後は元の体に戻れない
リバウンドによる最大の医学的弊害は「体重が同じでも、筋肉量と脂肪量の比率は変わっている」という点です。体重計の数字だけを見て安心していると陥る重大なわながあるのです。
短期間のダイエットによる急速な体重減少が起こると、体はエネルギー不足を補うために、脂肪だけでなく筋肉(骨格筋)をも分解してアミノ酸に変え、エネルギー源に充てようとします(糖新生・骨格筋の異化作用)。そうすると、減量体重の多くを筋肉量の減少が占めることになります。
一方、減量後の食欲に耐えかねて食事量を元に戻した場合、摂取した余剰のエネルギーは「脂肪」として蓄積されます。筋肉を再合成するためには、レジスタンス運動(筋力トレーニング)とたんぱく質を豊富に含むバランスの良い食事が必要ですが、食事制限を解いた後は「おなかいっぱい食べたいものを食べる」ことになりがちなため、脂肪の蓄積分が体重の増加につながるのです。
=ゲッティ
つまり、見かけの体重は同じでも、体の組成は「体脂肪量増加、筋肉量減少」へと変化してしまいます。毎年、健診の度に減量とリバウンドを繰り返していると、「以前よりさらに太りやすく、よりやせにくい体」へと変化するだけでなく、増量分の脂肪をため込んだ内臓脂肪の過剰蓄積が高血圧や高血糖、脂質異常症、脂肪肝などの病態を引き起こし、心血管疾患や脳卒中、さらには認知機能低下のリスクの上昇につながります。
やせたのになぜ尿酸値が上がるのか
内臓脂肪が過剰に蓄積されると、脂肪細胞から生理活性物質が分泌され、血糖をコントロールするインスリンホルモンの効きを悪くします。この影響で、腎臓からの尿酸排せつ量が減少します。一方で脂肪組織や肝臓における尿酸産生が増加するため、内臓脂肪型肥満では血清尿酸値が上昇しやすくなります。
尿酸は血管壁の炎症を生じさせて動脈硬化を進める物質の一つです。本来なら、減量すれば尿酸値もまた改善するはずですが、極端な食事制限などで急激に減量すると、さらに血清尿酸値の一時的な上昇を招くことがあるのです。食事から得られるエネルギーが極端に減ると、体が蓄えていた脂肪を分解して、エネルギーとして利用し始めるためです。特に減量を始めたばかりの時期には、筋肉の一部も分解されます。それに伴い、細胞の核に含まれる核酸(DNAやRNA)が代謝され、内因性プリン体の分解が増えることで、その最終産物である尿酸が増えるのです。
さらに重要なのが、ケトン体の増加です。主に体のエネルギー源となるのは糖質ですが、食事の量が大幅に減ると、血中のブドウ糖も減少します。体は不足したエネルギーを補うため、脂肪を盛んに分解するようになります。脂肪から生じた脂肪酸は肝臓へ運ばれ、エネルギーとして利用されます。
しかし糖質が大幅に不足している状態では、肝臓は脂肪酸の一部をケトン体という別のエネルギー源につくり替えます。ケトン体は、糖質が少ないときに脳や筋肉などで利用される、いわば非常用の燃料です。血中に増えたケトン体は腎臓から尿中へ排出されますが、その処理が増えると、尿酸が尿中へ排出されにくくなり、血液中に残りやすくなります。
また、極端な食事制限では、水分の摂取量も減りがちです。体内の水分が減ると血液中の尿酸濃度が高くなり、腎臓からの尿酸排出も低下します。これらの作用が起こった結果、急激な減量は尿酸値の上昇につながるのです。
この事実からも、短期間のダイエットは避けた方がよいことが分かるでしょう。
「リバウンドしない減量」とは
急激なダイエットは、太りやすい体に変えてしまうだけでなく、危険因子を生じやすい代謝異常につながります。重要なのは、健診前の駆け込みダイエットではなく、脳と体をだましながら、緩やかに進めるダイエットです。具体的な目標は「3~6カ月の間で3~5%の減量」です。
私がお勧めする取り組み方は以下の通りです。
これは今の食事や身体活動から減らす分量です。食事と身体活動を組み合わせると無理なく進められます。身体活動は、連続時間でなくても問題ありません。10分刻みでも同様の効果があります。食事の工夫では、例えば、ごはん一口ずつ少なく盛る、食パンにバターの代わりにハムを乗せるなど、無理な制限ではなく、習慣化できる項目を選択するのが長続きのコツです。
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野口緑
医学博士
のぐち・みどり 1986年兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。20年退職。大阪大大学院招へい准教授をへて、26年3月まで同大学院特任准教授。医学博士。