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「黒板の文字が見えにくい」「テレビに近づいて見るようになった」「メガネやコンタクトレンズの度数が前より強くなった」。こうした変化がある場合、近視が関係しているかもしれません。
近視とは、近くのものは比較的見えやすい一方で、遠くのものがぼやけて見える状態です。一般的には「目が悪い」と言われることが多いですが、正確には、目に入った光のピントが網膜より手前で合ってしまう状態を指します。
近視は大きく分けると、目の奥行きである眼軸長が長くなる「軸性近視」と、角膜や水晶体の光を曲げる力が強いことで起こる「屈折性近視」があります。近視の多くは、眼球が前後に伸びる軸性近視と考えられています。
軸性近視では、眼球そのものの形が変化しています。一度伸びた眼球を元に戻すことは難しく、メガネやコンタクトレンズで見え方を改善できても、目の構造が元通りになるわけではありません。つまり近視は、「遠くが見えにくい状態」であると同時に、「目の形が変化して進むことがある状態」と考えるとわかりやすいでしょう。
特に東アジアで増えている
近視は、ここ数十年で世界的に増えていると考えられています。特に日本を含む東アジアでは近視が多く、子どもの近視も大きな課題になっています。
近視が増えている背景には、遺伝だけでなく生活環境の変化も関係します。勉強、読書、スマートフォン、タブレット、ゲームなど、近くを見る時間が長くなり、屋外で過ごす時間が減っていることが影響していると考えられています。
もちろん、スマホだけが近視の原因と決めつけることはできません。ただ、スマホは画面が小さく、顔に近づけて長時間見続けやすい道具です。小さな文字を近い距離で見続ける習慣は、目にとって負担になりやすいといえます。学校健診で視力低下を指摘された場合や、黒板の文字が見えにくい様子がある場合は、早めに眼科で確認するようにしましょう。
将来的な病気のリスク高く
近視というと、「遠くが見えにくいだけ」と考える方もいるかもしれません。たしかに、メガネやコンタクトレンズを使えば、日常生活の見えにくさは改善できます。しかし、近視はそれだけの問題ではありません。特に強い近視では、眼軸長が長くなり、眼球の構造そのものが変化しています。そのため、将来的に白内障、緑内障、網膜剥離、近視性黄斑症などのリスクが高くなることが分かっています。
これらの病気は、視力低下や視野障害の原因になることがあり、場合によっては生活に大きな影響を与えます。そして、最悪の場合、これらの病気は失明につながることもあります。近視が強い人は、裸眼視力の問題だけでなく、目の奥の状態にも注意が必要です。
つまり、近視対策では「今よく見えるようにすること」と同じくらい、「近視をできるだけ進ませないこと」も大切です。近視は、今の見え方だけでなく、未来の見え方にも関わる目の変化なのです。
子どもの近視は要注意
子どもは、自分から「見えにくい」とうまく言えないことがあります。特に片目だけ見えにくい場合や、少しずつ視力が下がっている場合は、本人も変化に気づきにくいことがあります。黒板の文字を写すのが遅くなった、テレビや本に顔を近づける、遠くを見るときに目を細める、片目をつぶって見る、集中力が続かないように見える――。こうした変化がある場合、視力だけでなく、近視が進んでいないかを確認するきっかけになります。
=ゲッティ
学校健診で視力低下を指摘された場合も、「様子を見よう」で終わらせず、一度眼科で確認しておくと安心です。視力検査だけでなく、必要に応じて屈折検査や眼軸長の測定を行うことで、近視の状態をより詳しく把握できます。子どもの近視は、早く始まるほど進行する期間が長くなります。そのため、早めに気づき、生活習慣を見直し、必要に応じて近視進行抑制治療を検討することが大切です。
大人からでも近視が進む
「近視は子どものころに進むもので、大人になれば止まる」と思っている方もいるかもしれません。たしかに、近視は子どもから思春期にかけて進みやすく、成長が落ち着くと進行もゆるやかになることが多いです。しかし、大人になってから近視が進む人もいます。特に20代から30代では、仕事や勉強でパソコンやスマホを見る時間が長くなり、屋外で過ごす時間が少なくなることがあります。テレワークやデスクワークが中心の生活では、目が近くを見る時間に偏りやすくなります。
海外の研究でも、若年成人で近視が新たに発症したり、すでにある近視が進行したりすることが報告されています。子どもほど急激ではないとしても、大人の近視も完全に止まっているとは限りません。大人でメガネやコンタクトレンズの度数が合わなくなってきた場合、「疲れ目のせい」と決めつけず、視力や度数の変化を確認しておくと安心です。
屋外で過ごす時間が大切
近視対策として、まず意識したいのが屋外で過ごす時間です。子どもの近視では、屋外活動が近視の発症予防に役立つことが知られています。外で激しい運動をする必要はありません。散歩、公園遊び、通学、外での軽い活動など、自然光のある環境で過ごす時間を増やすことが大切です。
大人については、子どもほど明確に近視進行抑制効果が証明されているわけではありません。それでも、近くばかりを見る生活を避ける意味では、屋外で過ごす時間を作ることは目にとって良い習慣といえます。
例えば、昼休みに少し外を歩く。近い場所なら歩いて移動する。休日に屋外で過ごす時間を作る。長時間のデスクワークの合間に窓の外を見る。こうした小さな工夫でも、近くを見続ける状態から目を休ませるきっかけになります。
画面近づけるより文字を大きく
また、近くを見る作業の距離と時間を意識することも大切です。スマホやタブレットを見るときは、目から30cm以上離すことを意識しましょう。画面に顔を近づけるほど、目への負担は大きくなりやすくなります。小さな文字を読むときは、画面を近づけるのではなく、文字サイズを大きくするほうがよいでしょう。また、暗い場所で寝転がってスマホを見る習慣も見直したいところです。姿勢が崩れると、画面との距離が近くなりやすく、長時間同じ距離を見続けることにもつながります。
長時間の近距離作業では、途中で遠くを見る時間を作ることも大切です。よく知られている方法に、20分ごとに20秒ほど、6m(20フィート)程度先を見るという20-20-20ルールという考え方があります。厳密に守れなくても、作業の合間に遠くを見る習慣を入れるだけで、目の緊張をゆるめるきっかけになります。
近視対策は、スマホを完全に禁止することではありません。現代の生活でそれは現実的ではないでしょう。大切なのは、近すぎる距離、長すぎる時間、暗い環境を避けることです。
レーシックやICLも選択肢
大人の近視では、メガネやコンタクトレンズのほかに、レーシック、ICL、SMILEなどの屈折矯正手術が選択肢になることがあります。レーシックは角膜を削って近視を矯正する手術です。ICLは、目の中に眼内コンタクトレンズを入れて近視を矯正します。SMILEは、レーザーで角膜内の組織を小さな切開から取り出して近視を矯正する方法で、レーシックより切開が小さいことが特徴です。
ただし、これらの手術は近視によるピントのずれを矯正する方法であり、眼軸長が長いことによる将来の目の病気のリスクを完全になくすものではありません。手術で裸眼視力がよくなっても、強い近視がある人では、網膜や視神経の定期的なチェックが大切です。
また、手術にはそれぞれ適応があります。近視の度数、角膜の厚さ、年齢、ドライアイの有無、生活スタイルなどによって向き不向きが変わります。費用や評判だけで選ぶのではなく、眼科で十分に相談して決めることが大切です。
「メガネをかければ大丈夫」ではない
近視はとても身近な目の状態です。だからこそ、「メガネをかければ大丈夫」と軽く考えられがちです。しかし、子どもの近視は進行を確認することが大切です。大人でも近視が進むことがあります。そして、強い近視では将来的な目の病気のリスクにも注意が必要です。
・遠くが見えにくい
・目を細めることが増えた
・メガネの度数がすぐ変わる
・学校健診で視力低下を指摘された
・大人になってからも度数が進んでいる
・片目だけ急に見えにくい
こうした場合は、早めに眼科で相談してください。近視対策は、特別なことを一気に始める必要はありません。屋外で過ごす時間を増やす、スマホとの距離を保つ、近くを見る時間の合間に目を休める、メガネやコンタクトレンズの度数を定期的に確認する。こうした小さな積み重ねが、目の健康を守ることにつながります。
近視は、今の見え方だけでなく、未来の見え方にも関わる目の変化です。無理なく続けられる対策を取り入れて、近視と上手に付き合っていきましょう。
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栗原大智
眼科専門医
くりはら・だいち 2017年、横浜市立大医学部卒。関東近郊の総合病院で眼科診療に従事する傍ら、ウェブメディア「オンライン眼科」で記事を執筆。「ドクターK@眼科医パパ」としてXでも目について発信している。