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一般的に、50歳以上になると骨格筋の量は年間約1%ずつ減少すると言われています。ところが、これが65歳以上になると、栄養不足などによってわずか3〜4カ月で1%も減ってしまうことがあります。これが「筋肉減少の加速」の実態です。夏バテで食欲が失われやすい夏場は、特に加速されやすくなります。
筋肉の分解が加速
暑い夏は「冷たいそうめんなら食べられるかも……」と思いがちですが、ここに大きな落とし穴があります。炭水化物(糖質)中心の食事に偏ると、体をつくる材料であるタンパク質の摂取量がどうしても減ってしまいます。すると、体内では筋肉の分解がさらに加速されてしまうのです。
夏に食欲が低下する主な原因には、以下のものが挙げられます。
・暑熱による自律神経の乱れ
・水分のとり過ぎ
・胃腸の働きの低下
冷たいものの食べ過ぎ・飲み過ぎによって起こるのは「内臓の冷え」で、それによって胃腸の働きが悪くなります。夏は冷たい食事や飲み物を選びやすくなり、それが結果として食欲そのものを低下させ、栄養状態を悪化させる悪循環を生んでいるのです。
食事管理アプリ「カロミル」の利用者6387人を対象に行われた2024年の調査では、85.0%が「夏場に麺類を食べる」と回答し、そのうちよく食べる麺の第1位は「そうめん(64.8%)」でした。
一方、同年に発表された日本人シニア60人を対象とした研究(※)では、夏季は食欲が低下する人が多い一方で、「温かい食事をよく食べる人ほど食欲が保たれ、栄養状態(Mini Nutritional Assessment: MNA)やBMIも良好である」ことが示されています。
徹底比較! 食品のタンパク質量
管理栄養士向けの栄養指導では、そうめんや冷やしうどん、冷やし中華だけで食事を済ませると、タンパク質・ビタミン・ミネラルが不足しやすいことが具体例を挙げて注意喚起されています。
そうめんや冷やしうどんは消化が良く、夏には食べやすい食品ですが、これら自体に含まれるタンパク質はごくわずかです。ここで、人気の夏食材と、手軽に足せるおすすめ食材のタンパク質量を比べてみましょう。
数値を見れば一目瞭然ですが、そうめん自体が悪いわけではありません。「そうめんだけ」で食事を済ませてしまうことが問題なのです。
ちなみに私はそうめんが大好きで、海外からの留学生が多い私たちの研究室では「流しそうめん」のイベントが夏の風物詩です。
20年後より2週間後を考えて
タンパク質を補うために、ハムやソーセージ、サラダチキン、ツナ缶、サバ缶などの加工食品を利用するのも一つの方法です。「加工食品は体に悪い」という話を耳にすることがあり、敬遠するシニアの方もいるかもしれません。しかし、冷静に考えてみましょう。加工食品の問題として指摘されているのは、塩分過多や、脂質・糖質・添加物を多く含む製品を「長期間にわたってとり続けた場合」に生活習慣病のリスクが高まる可能性がある、ということです。その影響は毎日の食生活が20年、30年と積み重なって表れるものであり、数日から数週間で大きな健康被害が起こるものではありません。
そうめんは日本の夏の風物詩だが……=橋本勝利撮影
一方で、シニア世代が食欲を落としてタンパク質不足になると、筋肉は数週間という短い期間でも減少し始めます。筋力の低下は、転倒や骨折、さらには寝たきりの原因に直結します。
私たちシニアにとって大切なのは、「理想の食事」にこだわりすぎて何も食べられなくなることではありません。「20年後、30年後のリスク」を心配してタンパク質源を控えるよりも、「2週間後に筋肉を減らさない」ことの方がはるかに大切です。加工食品のリスクよりも、食べないことでタンパク質不足になるリスクの方がずっと大きいのです。暑い日は無理をせず、ハムでも、ソーセージでも、サラダチキンでも、利用できるものは上手に利用しましょう。
若者以上に「筋肉の材料」が必要
なぜ、これほどまでにシニア世代はタンパク質を意識しなければならないのでしょうか。それは、年齢を重ねると「筋肉が作られにくくなる」からです。若い頃は、一食で肉や魚、卵を食べれば、そのタンパク質は効率よく筋肉づくりに利用されます。しかし、近年の研究では、高齢になると同じ量のタンパク質をとっても、筋肉を作る働きが弱くなることが分かってきました。これを専門的には「アナボリックレジスタンス(同化抵抗性)」と呼びます。
シニアは若い人以上に「筋肉の材料」を意識して補う必要があるのです。ここに夏の食欲不振や運動不足が重なると、筋肉の減少はさらに加速します。一食抜いたくらいでは大丈夫だと思っても、それが毎日続けば、筋肉は砂時計のように少しずつ削られていくのです。
筋肉の役割は、「歩くため」「立ち上がるため」だけではありません。体内の「非常食(タンパク質貯蔵庫)」を管理する「司令塔」でもあるのです。病気やケガ、感染症などで食事が十分にとれなくなったとき、体は筋肉を分解して必要なアミノ酸を取り出し、免疫物質を作ったり臓器を動かしたりして、生命を守ろうとします。つまり、夏の間に筋肉を減らさないことは、秋や冬に体調を崩したときの「備え」になります。
最近の研究では、筋肉を動かすことで「マイオカイン」と呼ばれるさまざまな生理活性物質が分泌され、脳や肝臓、脂肪組織、免疫系など全身の働きを調節していることが分かってきました。筋肉を保つことは、全身の若々しさを守ることに直結しているのです。
=ゲッティ今日からできる「何を足すか」
「今日は暑いから、冷たいそうめんなら食べられる」。夏には、このような日が誰にでもあります。食べないよりも食べた方がずっと良いことは事実です。ですから、大切なのはそうめんを食べないことではなく「そうめんに何を足すか」です。卵を一つ落とすだけでも、タンパク質量は約6gアップします。さらに、以下のような手軽な食材を「そうめんの相棒」として組み合わせてみましょう。
・定番のタンパク質源…卵、豆腐、納豆、豚しゃぶ
・手軽な缶詰類…ツナ缶、サバ缶
・ネバネバ系で喉越しアップ…オクラ、とろろ
これらを少しトッピングするだけで、炭水化物に偏っていたそうめんが、一気に「夏の健康食」へと生まれ変わります。
筋肉は使わないと減るだけでなく、材料(タンパク質)が足りないと分解されてしまう仕組みになっています。その結果、足腰が弱り、疲れやすくなり、免疫力まで低下してしまいます。
この夏を元気に乗り切るために、まずは「一皿にタンパク質をプラスすること」から始めてみましょう。
(※)Fujihira K, Takahashi M, Iizuka A, et al. Summer nutritional status and appetite are associated with the frequency of hot meal/drink intake among Japanese older people. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2024;70(3):288-292.
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米井嘉一
同志社大教授
よねい・よしかず 1982年慶応大医学部卒。2005年に日本初の抗加齢医学講座、同志社大アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。「Dr.米井の アンチエイジング・セルフチェック」で実年齢と5種類のリストから機能年齢を診断している。