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暑い季節は、仕事終わりや風呂上がりに冷たいビールでいやされるという人も多いでしょう。私自身は普段あまりお酒は飲みませんが、若い頃には毎日日本酒を2合飲んでいた時期もありました。やはり、飲酒を続けているとやや血圧が高くなりました。お酒を飲むと、その後7時間ぐらいは血圧が下がりますが、アルコールが分解されて酔いがさめた頃に血圧が上がるようです。
冠動脈が縮み上がって……
私がまだ若手医師だったころ、異型狭心症といって、通常よく見られる労作狭心症と違うタイプの狭心症の男性が入院されたことがありました。詳しく症状をお聞きすると、その方の狭心症は、お酒を飲んで数時間後酔いがさめたころに胸が痛くなる、特殊なタイプの狭心症でした。
毎日2~3合の日本酒を飲み、お酒がさめる明け方の午前3時ごろに胸が痛くなるといいます。このため、特別に許可を取って、入院中にお酒を3合飲んでいただきました。私は24時間血圧計での測定を担当しました。飲酒後1時間ほどで数十mmHg低下した血圧は、その後徐々に元の数値近くまで上昇し、約9時間半後の午前3時半ごろから狭心症発作を数回起こしました。血中アルコール濃度は、最初の発作時にはほとんど消失していました。
通常の狭心症は、正式には、「労作狭心症」といって、歩いたり、階段を上るような運動(労作)をしたりすると、胸痛が起こるタイプです。病気の背景には、心臓に酸素や栄養を供給する冠状動脈という血管に動脈硬化があり、血管の内腔(ないくう)が狭くなっていることがあります。十分に血液中の酸素や栄養を心筋の細胞に送り届けられなくなり、安静にしているときは症状が起こらないのに、労作をした場合に十分な酸素が届かなくなって心筋が酸欠状態になります。そうなると、酸欠になった心筋に痛みが生じます。これが、労作狭心症のメカニズムです。通常、痛みの持続時間は数分間です。
=ゲッティ
ところが、労作をしていないのにもかかわらず、夜間から早朝、安静時に突然冠動脈がけいれんして血流が減り胸痛が起こる、「異型狭心症」「安静狭心症」などと呼ばれるタイプがあります。こちらは痛みの継続時間が20~30分に及びます。けいれんの原因の一つとして、飲酒によって血中マグネシウム濃度が低下することが指摘されています。先述の男性もその可能性が疑われ、治療が行われました。
潔い禁酒で大幅低下
「酒は百薬の長」という言葉があります。しかし、飲み過ぎは生活習慣病の原因にもなり、依存性も気になるところ。「酒は百毒の長」などと逆説的な表現もあるそうです。
私が普段診察する患者さんの中にも、お酒好きな方は多くいらっしゃいます。
高血圧の当時80代の男性は、日本酒がお好きで毎日2合半飲むという左党でした。3種類の降圧薬を処方されていましたが、朝の血圧は上(収縮期)が180mmHgに達することがあるほど、コントロールが悪い状態です。
「あまりにも血圧の数値が高くて、飲酒量も多いですよ。一日1合半くらいに控えてみてはどうですか?」
と提案したところ、
「先生に言われるほどなら……。よし、やめよう!」
なんと潔い返事をいただきました。意気込み十分で、お酒をきっぱりやめられたのです。家庭血圧の測定と記録もきちんと続けてくださいました。
すると、2週間を過ぎるころには血圧が正常範囲に近づいてきました。1カ月後には、平均で上が12.3mmHg、下(拡張期)が4.6mmHg低下したのです。降圧薬の服用は続けていましたが、よくコントロールできた状態で、「やればできるんだね」と喜んでくださいました。
しかし、良かったのはここまで……。こちらの患者さんは元々お酒が好きなものですから、1カ月ほどすると「やめられないんです」と徐々に飲酒を再開してしまいました。すると、やはり血圧もまた上昇してくるのです。その後も、禁酒をしてみたり、節酒として飲酒量を減らしたりしたことはありますが、最初の禁酒の時ほどはうまくいきませんでした。
おつまみやカロリーにも要注意
お酒の飲み過ぎは、やはり血圧にとって危険因子なのです。
長期の習慣的な飲酒が血圧を上げるメカニズムについては、交感神経の活性化や血圧を調節するホルモンの働きの変化、血管の機能低下などさまざまな要因が指摘されています。
また、アルコールは高エネルギーな飲み物です。日本酒2合半なら、エネルギー量ではご飯茶わん約2杯分に匹敵します。大量飲酒は肝臓での脂肪合成を促して、肥満や脂肪肝を誘発します。肥満になると、血管収縮物質の分泌量が増えて血圧が上がりやすくなります。
お酒を飲むときには、おつまみを一緒に口にする人が多いのではないでしょうか。おつまみとともにお酒を飲むことには、消化管への負担やアルコールの吸収を緩やかにする効果があり、空腹での飲酒を避けることが推奨されています。しかし、おつまみは塩分過多のものが多く、食べ過ぎれば肥満にもつながります。よりお酒が進んで、飲み過ぎてしまうこともあるでしょう。
少量なら……ほどほどが一番
では、お酒はきっぱりやめなければならないのか……。というと、実はそうでもありません。お酒は循環器疾患に対して、悪影響も好影響もあるのです。出血性脳卒中はアルコール摂取量とともにリスクが高まりますが、少量の飲酒ならリスクが低いという研究があります。最もよく知られているのは冠動脈疾患や心筋梗塞(こうそく)で、少量から中程度の飲酒では発症リスクが低いとされています。少量の飲酒者は、全くお酒を飲まない人に比べて、心血管疾患による死亡が少ないことが示されています。
もちろん飲み過ぎは制限すべきですが、アルコール依存症などの場合を除けば、必ずしも禁酒すべきだとは言えません。日本高血圧学会の高血圧管理・治療ガイドライン2025では、生活習慣の改善として「節酒」を掲げ、エタノールで1日あたり男性約20~30mL以下に制限することを勧めています。これはおおよそ、日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ワイン2杯に相当します。女性の場合は、その約半分の約10~20mL/日です。
お酒といえば思い出すのが、私の医大時代からの親友です。よく誘われて一緒に飲んだこともありましたが、彼はストレスから酒量が一日5合にまで増えて肝臓を壊し、60代で亡くなってしまいました。私は同窓会誌に「酒の神バッカスに召されてしまいました」と寄稿し、悼んだものです。やはり「お酒はほどほど」が重要です。皆さんもバッカスと仲良くなりすぎないように、どうぞお気をつけて楽しんでください。
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渡辺尚彦
日本歯科大客員教授
わたなべ・よしひこ 1978年聖マリアンナ医大医学部卒、84年同大学院博士課程修了。医学博士。米ミネソタ大時間生物学研究所客員助教授、東京女子医大教授、早稲田大客員教授など歴任。高血圧専門医。循環器専門医。