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糖質制限食が「市民権」を得た今、ご飯やパンをどう減らすべきか、悩んでいる方もいるでしょう。そうした炭水化物の主食には糖質がたくさん含まれており、食べ過ぎれば高血糖や肥満を招きやすいと言えます。しかし、全く食べないでいることは現実的ではなく、甘いものを我慢できなくなる時もあるものです。果たして炭水化物は本当に忌避すべきものなのか? 最新の研究結果がヒントになるかもしれません。
健康診断の数値から「生物学的年齢」を推定
今年、老化生物学の分野で高い評価を受けている米国の学術誌「Aging Cell」に興味深い報告が掲載されました。オーストラリアのシドニー大学の研究チームが高齢者の食事を4週間にわたって用意し、血液検査や血圧から推定した「生物学的年齢」がどう変わるかを調べたのです。驚いたことに、食物繊維が豊富な未精製の食品から炭水化物を多く摂取した人は、オーストラリアで一般的な脂質の多い食事を取った人に比べて、「生物学的年齢」が平均で約3.5〜4.1歳若く算出されたといいます。
4週間の食事で「生物学的年齢」がどう変化するかを研究報告した論文=「Aging Cell」のホームページより
暦の上の年齢(実年齢)は誰でも1年に1歳ずつ増えますが、実は体が年を取る速さには個人差があります。この差を数字で表そうとするのが生物学的年齢という考え方。さまざまな測り方が研究されていますが、今回の研究では、健康診断でおなじみの検査値を組み合わせて年齢を推定する計算方法が使われました。
材料になるのは、血糖値、コレステロール、血圧、炎症の程度を示す値など。米国の大規模な健康調査のデータから、それぞれの検査値が何歳くらいの人に多い値なのかを割り出し、個人の値を当てはめて年齢を推定しました。科目ごとの点数から総合成績を出すようなものだと考えると、分かりやすいでしょうか。こうして出した生物学的年齢が実年齢より低ければ「年齢の割に体の年齢は若い」、高ければ「年齢の割に体の年齢は高い」ということになります。
研究チームが米国のデータで確かめたところ、男性では、生物学的年齢が実年齢を上回る人ほど、その後の死亡リスクが高い傾向にありました。一方、女性では、はっきりとは確認できませんでした。
食べる量は「自由(カロリー制限なし)」の4パターン
この研究の参加者は65〜75歳の男女104人。たばこを吸わず、糖尿病やがん、腎臓や肝臓の病気など重い持病のない人たちでした。試験前の食事は、加工食品や砂糖、動物性の脂が多い典型的なオーストラリアの食生活だったとされています。
参加者は、くじ引きのようなランダムな方法で、次の4種類の食事のどれかに割り振られました。どの食事もたんぱく質の割合は同じにそろえてあり、違いは「肉や魚も普通に食べるか、植物中心にするか」と「脂質と炭水化物のどちらを多くするか」の2点です。このうち「肉や魚も食べる、脂質多め」の食事が、参加者の普段の食事に最も近い内容でした。研究チームは、この食事を比較の基準にしました。
食事は4週間すべて自宅に届けられ、参加者は届いた献立を好きなだけ食べることができました。食べた量は重さを量って記録され、決められた栄養の割合がほぼ守られていたことが確認されました。カロリーは制限していません。
「肉や魚も食べる、炭水化物多めの食事」で変化が
4週間後、普段に近い食事のグループでは生物学的年齢に目立った変化はありませんでした。一方、残りの3グループでは、いずれも平均して生物学的年齢が若くなる方向へ動きました。研究チームは、試験開始時点の差をならしたうえで、4週間後の体の年齢を基準の食事のグループと比べました。
研究チームは、使う検査項目の数を変えた2通りの方法で計算しました。
7項目とは血糖値、コレステロール、血圧、炎症の値など、15項目はこれにインスリン、中性脂肪、善玉(HDL)コレステロール、腹囲などを加えたものです。どちらの計算でも確かな差が出たのは、「肉や魚も食べる、炭水化物多め」のグループだけでした。
血糖値や血圧などと共に腹囲も研究の検査項目に(画像の一部を加工しています)=三重県伊勢市で2010年1月24日、木村文彦撮影
植物中心の2グループも同じ方向に動いていますが、偶然の可能性を否定しきれない結果も含まれます。男女の違いを考慮して計算し直しても、この結論は変わりませんでした。ただし、1グループ23〜27人と人数が少なかったので、差があっても確かめきれなかった可能性があると著者らは述べています。
「体の年齢が若くなった食事」に共通すること=ゲッティ
ただし、この結果を「炭水化物をたくさん食べると体が若返る」と単純に考えてはいけません。試験で出された炭水化物は主に加工が少なく、丸ごとの食品から取るものでした。実際、著者らは、白い小麦粉や砂糖のように精製された炭水化物では体への影響が違う可能性があると述べています。
炭水化物とは「糖質+食物繊維」の総量になりますが、お菓子や甘い飲み物に含まれる炭水化物は精製の過程で食物繊維の多くが取り除かれており、まったく食物繊維が含まれていないこともあります。一方、全粒穀物や豆類、イモ類、野菜に含まれる炭水化物は食物繊維を豊富に含んでいるため、糖質だけでなく食物繊維も一緒に取ることになります。
炭水化物でも豆類なら食物繊維が豊富に含まれている=東京都豊島区で2007年10月16日、三浦博之撮影
実際、体の年齢が若く出た三つの食事には、基準の食事より果物、野菜、豆類が多く含まれており、脂質が減って食物繊維が増える方向へ大きく変わったという共通点がありました。同じ試験の別の報告でも、果物や野菜、食物繊維の多い食事に切り替えたことで体脂肪や筋肉の量、血圧や血糖、コレステロールなどの値が改善し、植物中心の食事ではさらに良い変化がみられたとされています。
つまり、体の年齢を動かしたのは炭水化物の割合そのものだけではなく、食物繊維や植物性の食品を含めた食事全体の質の変化だった可能性があるのです。
増やすか減らすかではなく、何から取るか
私の外来では、患者さんから「糖質や炭水化物は体に良くないと聞いたが、どのくらい減らせば良いのか?」という相談をよく受けます。 しかし、増やすか減らすかを決める前に、まず何から取っているかを確かめる方が先だと考えています。繰り返しになりますが、炭水化物は活動するための重要なエネルギー源となる「糖質」と、おなかの調子を整える「食物繊維」を合わせた総称。よって全粒穀物や豆類、野菜、果物などに含まれている炭水化物と、砂糖やブドウ糖などに含まれる精製度の高い糖質とは分けて考える必要があります。
では、日本の食卓ではどのように置き換えたらいいのでしょう。論文の結果と、これまでの知見を踏まえて、一例を提案します。
•菓子パンや甘い飲み物の代わりに、根菜類や果物を選ぶ
菓子パンの代わりに根菜類や果物を選ぶのがお勧めだという=2013年4月29日、小島正美撮影
•白米に雑穀や玄米などを混ぜる
•毎食、野菜やキノコ、海藻のおかずを一品加える
魚介を増やしつつ、野菜や海藻のおかずも取り入れたい=東京都港区で2015年6月25日、関口純撮影汁物ならキノコをたっぷり摂取できる=大阪市北区で2021年11月1日、菱田諭士撮影
•納豆、豆腐、煮豆などの豆類を取り入れる
•魚を増やす
•ハムやソーセージなど加工肉を控える
変化を確かめたい場合は、健康診断の血糖値、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧、腹囲を書き出し、定期的な検査で同じ項目を比べる方法があります。ただし検査値はその日の体調や前日の食事でも変わるため、1回の結果ではなく何回か継続し、流れで確認するのが良いでしょう。
ただし、糖尿病や腎臓病で食事の指導を受けている方、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方(納豆など一部の食品に制限があります)、食が細く体重が減ってきている方、胃腸の病気など持病のある方は、食事を変える前に主治医に相談してください。
第1回世界長寿サミットで、元気いっぱいによさこい踊りを披露する女性たち=京都府京丹後市峰山町の丹後文化会館で2025年6月16日午前9時5分、塩田敏夫撮影
今回の試験が示したのは、食事の組み立て方を変えると、検査値から推定する体の年齢が4週間という短期間でも動く可能性があるということです。将来の病気や寿命の違いにつながるかどうかは、もっと長い期間の試験で確かめる必要がありますが、普段の食事の重要性を改めて見直すきっかけになるのではないでしょうか。
※本記事は論文の内容を一般向けに解説したものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。
<参考文献>
・Andrews CJ, Ribeiro RV, Gosby A, Le Couteur DG, Raubenheimer D, Tan J, et al. Short-term dietary intervention alters physiological profiles relevant to ageing. Aging Cell.2026;25(5):e70507.doi:10.1111/acel.70507
・Ribeiro RV, Senior AM, Simpson SJ, Tan J, Raubenheimer D, Le Couteur D, et al. Rapid benefits in older age from transition to whole food diet regardless of protein source or fat to carbohydrate ratio: a randomised control trial. Aging Cell. 2024;23(11):e14276.doi:10.1111/acel.14276. PMID: 39011855
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今野裕之
ブレインケアクリニック名誉院長
こんの・ひろゆき 2001年日本大医学部卒。15年順天堂大大学院修了。日大板橋病院などを経て現職。一般社団法人・日本ブレインケア認知症予防研究所所長。精神科専門医。近著に「ボケたくなければ『寝る前3時間は食べない』から始めよう」