◆きょうからUAEでCOP28 温暖化対策で求められるひとつが「自動車の脱炭素化」
日本の二酸化炭素排出量のうち自動車から出る分だけで15%も占めています。また、私たちの家庭から出るCO2でも23%が車のガソリンによるもので、これは都市ガスやLPG、灯油から出る量より多いんです。そのため自動車の脱炭素化、つまりCO2を出さない車にどれだけ早く変えていけるかは温暖化対策のカギのひとつとされます。
こうした中、今月5日まで開かれていたジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)でも、各社が最もアピールしていたのが、電気自動車をはじめとするエコカーでした。
日本ではエコカーとしてはまずハイブリッド車(HV)が普及しましたが、これは基本的にガソリン車で、CO2は減らせはしても出し続けるため過渡期の技術とも考えられています。ただし、充電もできるプラグイン・ハイブリッド(PHV)は統計上EV・電気自動車の仲間に入れることもあります。そして、走行時にCO2を出さない車としてはいわゆる電気自動車、これはEVとかBEV(バッテリーEV)と呼ばれることもありますが、この他に水素を燃料にして発電して走る燃料電池車・FCVも既に日本のメーカーが市販していて、今後トラックなどの大型車に適しているのではとの期待もあります。
◆世界的に電気自動車の普及が加速
こうしたエコカーの中でも、近年世界的に電気自動車への転換“EVシフト”が進んでいます。
IEA・国際エネルギー機関などのデータでは世界の新車販売のうちEV(*ここではPHVは除いたEV・BEV)が、去年初めて新車販売のおよそ1割に達しました。特に多いのは中国で去年の新車販売のおよそ20%。ヨーロッパは各国平均で12%、アメリカでは6%でした。これに対し日本は1%台なのでかなり差があります。
日本のメーカーがガソリン車で強かったため転換しにくかった面も否定できませんが、他にも色々な理由があります。
まずやはり価格の高さ。これは各国とも補助金や税制で差を埋めてきましたが、日本の補助金は経済産業省と環境省が別々に持っていたり国と県と時には市町村もそれぞれ別にあったりでわかりにくく、消費者側の手続きもかなり複雑です。また航続距離や充電スポットの数など充電への不安があります。これについては後ほど触れたいと思います。そしてもうひとつ、EVって本当にエコなのか?という疑念も日本ではあるように思います。
◆EVって本当にエコ?
ガソリン車とEVで製造から廃棄までの全体でCO2排出量を比較すると、まず車の製造時に出るCO2は実はガソリン車の方が少ないのです。これはEVに不可欠な大容量のバッテリーを作るのに多くのエネルギーを使うことが影響しています。車の種類で大きく違いますがEVの方が倍ぐらい多いこともあるとされます。
一方で走行する時のCO2はEVは「排出ゼロ」ということになっています。もっとも充電する電気は主に発電所で作られていて、そこではCO2が出ているのですが、こちらのように電力の脱炭素化が欧米より遅れている日本でも、「非化石」(CO2を出さない再エネと原子力をあわせたもの)の発電割合が年々増えている、その結果発電で出るCO2は減り続けていますので、「走行することで出るCO2」は、やはりガソリン車よりEVの方がかなり少なくなります。
◆今後乗り換えるなら日本でもEVの方がCO2は少なくなる
全体で比べるとCO2の量はこういうグラフになります。車を製造したばかりの最初はガソリン車の方がCO2が少ないものの、長く乗るほど走行時に出す量の方が影響が大きくなるのでEVの方が段々エコになり矢印の所で逆転します。これはアメリカの研究で、乗用車だと走行距離3万kmぐらいからEVの方がCO2が少なくなると試算されています。日本だと発電所で出るCO2がアメリカよりまだ多いこともあって、数年前のデータだと逆転するのに10万km以上かかるとの試算もありましたが、日本でも年々発電のCO2は減っているので、今後乗り換えるケースではEVの方がCO2が少なくなる、よりエコになると言えます。
◆EVの課題 充電をどうする?
EVについては充電に関する不安を持つ人が多いでしょう。実際、充電設備の数を比べると日本は中国や欧米だけでなく人口が日本の半分以下の韓国よりずっと整備が遅れています。
先月になって経済産業省が、2030年までに充電設備を現在の10倍の30万に増やすという指針を打ち出しました。また自治体では、東京都が2025年度から駐車場のある新築のビルやマンションにも一定台数分の充電設備を義務づける条例を去年成立させています。戸建て住宅なら家で充電できますが、マンションに住む人はそこがネックだったので、東京のような動きが広がるとEVの普及が加速しそうです。
他にはバッテリーを高性能化する研究も進んでいますし、さらに全く別の発想で充電の 問題を解決しようという動きも出てきています。
例えば、バッテリー自体を充電済みのものと交換するシステム。ジャパンモビリティショーではEVのトラックやバイクでも展示されていました。この方式なら充電のために長時間待たされることがありません。
東京大学の藤本博志教授らのグループは、千葉県柏市で「走行中給電」という新技術の実証実験を進めています。これは道路の下に送電用のコイルを埋め込み、その上をEVが通過すると電磁波で充電する仕組みです。自動車の下部にも電磁波を受けるためのコイルが取り付けられています。交差点ごとにこうした仕組みを導入することができれば、今のEVの数分の一の小さなバッテリーを搭載するだけで残量を心配せずどこまででも走れるようになる上、バッテリーが小さくなることで価格も下がり多くの人がEVにシフトしやすくなるメリットもあると言います。再来年の大阪・関西万博でEVのバスがこの技術で走る予定です。
自動車産業は今世界的な脱炭素化の競争にさらされていますが、それはメーカーだけでなく、こうしたインフラも含めて今後の社会のあり方が問われているように思います。
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