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年を取ると人柄は変わるのか? 意外と知られていない加齢と性格の変化西川敦子・フリーライター
2024年6月26日
「なんだか最近、性格が変わってきたな……」。高齢の親やパートナーのふるまいに、ふと違和感を抱くことはないでしょうか。性格の分析に用いる「ビッグファイブ理論」をもとに国内外の研究機関が調べたところ、「性格と加齢」には意外な関係があることがわかってきました。お年寄りの話が長いワケは? 性格の変化は男女で違う?――愛知学院大学心理学部心理学科准教授の谷伊織さんに伺いました。
「こんな人じゃなかったのに…」は病気のサイン?
――「高齢の親やパートナーの性格が変わってきた」という話をよく耳にします。穏やかになった人もいる一方、「別人のように怒りっぽくなった」「ふさぎ込むようになった」などの声も少なくありません。年をとると性格は変わるのでしょうか。
加齢でイライラするのは、必ずしも性格の変化が原因とは限りません。たとえば認知機能が衰えると、感情をコントロールする力が低下して怒りが暴発することがあります。記憶力が減退して約束をすっぽかしてしまい、指摘されてキレる――といった人もいるでしょう。
身体機能の変化も影響します。もともと明るくて社交的な人なのに、腰や膝が痛むからと引きこもり、人と話さなくなる、など。がんなど重大な病気を発症している場合は、精神的余裕を失って人と衝突しがちになるのではないでしょうか。不安や焦りが見られる場合は、老年期うつの可能性も否めません。
――「ちょっとおかしいな」と感じるときは、認知症やうつ、身体の痛み、あるいは深刻な病気を抱えている可能性もあるわけですね。
性格そのものが変化していることもあります。国内外の研究からも、人の性格は加齢である程度変わることがわかっています。長期にわたって同じ人々を追跡調査した研究でも変化が認められていますし、一斉調査で若い人と高齢者を比較した研究でも違いが確認されています。
しかも興味深いことに、欧米や日本などさまざまな国の研究結果を分析すると、加齢による性格の変化には共通の傾向が見られるのです。
――どんな傾向でしょうか。
性格の変化に関する多くの研究では、米国の心理学者、ルイス・R・ゴールドバーグが提唱した「ビッグファイブ理論」を用いています。ビッグファイブ理論では、個人の性格を「外向性」「調和性」「勤勉性」「神経症傾向」「開放性」の五つの因子の組み合わせでとらえます。
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■外向性(Extraversion)
エネルギッシュで社交的な傾向
■調和性(Agreeableness)
共感力が高く、協力的で、他人との関係を大切にする傾向
■勤勉性(Conscientiousness)
責任感が強く、与えられた役割や仕事をきちんとこなそうとする傾向
■神経症傾向(Neuroticism)
感受性が強く、不安や心配、怒り、抑うつなどを感じやすい傾向
■開放性(Openness)
探求心・好奇心が強く、新しいことに挑戦する意欲が高い傾向
五つの因子の点数を測定し、各年代の平均点数を見てみると、「外向性」がもっとも高くなるのは20代半ば。その後、徐々に落ちていくのですが、50代半ばから70代くらいにかけていきなり下がります。ちょうど体力が衰えてくる年ごろですので、どうしても活動量が減るのでしょう。
一方、「調和性」は40代くらいから上がっていきます。若い頃はとんがっていた人も、周囲に合わせるようになるなど、人間的に丸くなっていく。会話もよくするようになります。
――よく「お年寄りは話が長い」と言いますね。
無口だと思われていた人も、年をとると意外に話好きになることが多いですよね。「勤勉性」も高まります。一気に上がるのは20代から30代。学生のとき授業をサボりがちだった人が、社会人になると人が変わったように真面目になったりする。以降も少しずつ伸びていき、70代になっても下がりません。
10代のときは高かった「神経症傾向」は、20代以降は下がっていきます。大人になって経験を積むと、社会に対する不安感や警戒心が薄らぐのではないでしょうか。高齢期ではかなり低く、メンタル面が安定していることがわかります。
ただし、「開放性」は高齢期に入ると下がります。20代で上がったあと横ばいが続くのですが、さすがに60代になり体力が衰えると、新しいことにチャレンジしづらくなるのでしょう。高齢の方にはデジタルが苦手という人が少なくありませんが、年を重ねると使い慣れたものを選ぶ傾向が強くなるようです。
加齢で心は成熟するが性別で変化のしかたは異なる
――年をとると、「外向性」と「開放性」以外はよい方向に変化する傾向がある、ということですね。
心理学用語に「成熟の原則」という言葉があります。人生経験を積むとより広い視野で物事を見られるようになって、精神的な余裕が生まれ、周りを思いやるようになるのではないでしょうか。「外向性」と「開放性」が落ちるのも、体力低下に適応するための現象といえます。
ただ、性別によって変化のしかたは少し違います。たとえば「神経症傾向」ですが、全体的に女性のほうが男性より高いんですね。加齢による変化を見ると、男性はあまり変わらないけれど、女性はどんどん下がっていきます。
――若い女性には精神的にアンバランスな傾向があるのですね。
人間以外の動物でも繁殖期のメスはセンシティブになりやすいとされています。異性や周囲に対し、若い女性が本能的に警戒するのはごく自然なことかもしれません。ホルモンバランスも影響しているのではないか、と言われています。
ただ、加齢に伴い、周囲の反応も若いころとは変わってきます。本人も子育てなどさまざまなライフイベントを経るうちに世慣れてきて、いろいろなことを気にしなくなるのかもしれません。
また、「調和性」「勤勉性」は男女ともに上がっていくのですが、どちらも女性のほうがちょっと高めです。ただし、「開放性」は男性のほうが高いですね。年をとると下がっていき、男女のギャップが小さくなっていきます。
――性格における性差は、年齢とともに縮まっていくようですね。
「変わらないね」同窓会で盛り上がるのには理由があった
――お話を伺い、人は加齢によって変わるのだな、とわかりました。
そうですね。各年代における平均値を追っていくと、たしかに変化が見られます。ところが、相対的に性格を比較した米国の研究では、年齢による変化がさほど見られないんです。
――どういうことでしょうか。
わかりやすく説明すると、こういうことです。たとえば、Aさん、Bさん、Cさんという学生時代からの仲良し3人組がいたとしましょう。大学生のときは、Bさんから見るとAさんは真面目で、Cさんはちょっとルーズなところがありました。さて10年後、同窓会が開かれて久しぶりに3人が集まります。それぞれ就職して何年かたっていますから、みんなある程度経験を積み、社会人として成長しているはずですよね。
愛知学院大学心理学部心理学科准教授の谷伊織さん=本人提供
――各年代の平均値を追った研究では、20~30代で「勤勉性」が上がるということでしたね。
ところが、Bさんから見ると相変わらずAさんは真面目だし、Cさんはちょっとルーズに見える。つまり、3人ともそれぞれ「勤勉性」は上がっているのですが、ランクづけすると、相変わらず1位はAさんで、最下位はCさんなのです。
一人ひとりは変化しているけれど、相対的に3人を比べると順位は変わらない、ということですね。だから、「AさんはAさんらしいし、CさんはやっぱりCさんだ」となります。
――なるほど。同窓会ではありがちな光景です。
もともと持っていた良さに目を向けて
―――だとすれば、高齢になった親やパートナーも根本的な部分はそう変わらない、と考えたほうがよいのでしょうか。
加齢や心身の状態によって変化はあるけれど、「その人らしさ」みたいなものは大きく変わらないのではないでしょうか。ふとしたとき、「行動パターンや大切にしている価値観は、やっぱり揺らがないな」と感じることはあると思います。
――口論したりすると、「昔はこうじゃなかったのに」とがっかりすることも多いように感じますが……。
若かったころを知っている相手ほど、以前とのギャップを感じてしまうでしょうね。とくに認知症になると「調和性」などが低下するので、なおさらでしょう。
でも、加齢や病気は誰しも避けられないことですから、「変化するのがあたりまえ」と理解し、受け止めてあげたいですね。そのうえで、もともと備わっているよさ、歳月を経て成熟した面にも目を向けることができれば、お互いより幸せな関係を築けそうです。
たに・いおり 2002年、名古屋大学教育学部人間発達科学科卒業。07年、名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程後期課程満期退学。愛知淑徳大学健康医療科学部スポーツ健康医科学科准教授を経て、20年、愛知学院大学心身科学部心理学科准教授。2022年より現職。共著に「Big Five パーソナリティ・ハンドブック 5つの因子から『性格』を読み解く」(福村出版)など。
特記のない写真はゲッティ
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にしかわ・あつこ 1967年生まれ。鎌倉市出身。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクションなどを経て、2001年から執筆活動。雑誌、ウエブ媒体などで、働き方や人事・組織の問題、経営学などをテーマに取材を続ける。著書に「ワーキングうつ」「みんなでひとり暮らし 大人のためのシェアハウス案内」(ダイヤモンド社)など。