◇治療、親同意も難しく
医療ケアが必要な障害児のための医療型障害児入所施設の子どもの6人に1人が保護者らから虐待を受けていたとみられる--。毎日新聞が施設を対象に実施したアンケートでそんな結果が出た。国は児童養護施設の職員増員など児童虐待対策を進めているが、障害児施設への対策はほとんどなく、現場任せなのが実態だ。
床ずれ予防の寝返りをするため背中を抱えられた女子高生は、口元をわずかにゆるめた。東日本の医療型障害児入所施設にいる少女は、乳児の時に頭の骨を折り、搬送先の病院で硬膜下血腫と網膜剥離が判明した。「きょうだいが高いところから落とした」。両親は虐待を否定したが、以前から不自然なけがが続いていたため、児童相談所(児相)が保護し、退院後に施設に入所した。
全身がまひ状態で今もほとんど体を動かせず、視覚障害、重い知的障害がある。施設に併設された特別支援学校に入学し、療育を受けてきた。
親は入学式や卒業式にも姿を見せなかった。数年前に食べ物をのみ下しにくくなり、施設は胃ろうの手術を検討。児相が転居していた親を捜し出して説得し、同意を得てようやく手術できた。
少女はこの数年で人の声がする方に顔を向け、話しかけられると顔をほころばせるようになってきた。男性職員は「十数年かけて成長している」と言う。
東日本の別の医療型施設の小学女児は、幼児の時に硬膜下血腫で搬送され、半身のまひと知的障害を負った。階段から落ちたという親の説明が不自然な大けがで、児相に保護された。
母親が面会に施設を訪ねるのは年1回ほど。施設は女児の成長に合わせ、歩行を補助する特殊な靴を新調しようとしたが、職員が母親の自宅を訪ねても会えず、同意が得られないまま越年した。
共に寝起きする友だちには親が面会に訪れたり、休みには自宅に帰ったりするが、女児には迎えに来る人はいない。「抱っこして」。女児は面会に来る友だちの親にせがむことが多いという。
この施設の男性職員は「虐待された障害児は何重ものハンディを負う。切なさや不安を表現できず、他人や自分を傷つける子もいる」という。「他人と関係を築くには丁寧な個別の対応が必要だが、心理的なケアまで手が十分回らない。職員の努力も限界に近い」と話した。【野倉恵】
◇国は調査実施し、速やかな支援を
「親の暴力から保護された子が他の子をたたく」「夜間に『子供を帰せ』と迫る親がいて、当直の看護師だけで対応できない」。虐待を受けた障害児が入所する施設では10年以上前から、そんな職員の声が上がっていた。病気治療や機能回復訓練が専門の施設が、虐待にも対応せざるを得ないことに対する悲鳴だ。
児童虐待防止法は、ケアの調査研究や被虐待児が家庭的環境で育つための配慮、自立支援を国と自治体の責務と明記している。このため国は児童養護施設などの子どもたちを対象に入所理由や虐待を受けた状況などを調査し、虐待対策の基礎データにしている。また、虐待対応の専従職員の配置が進められ、今年度はよりきめ細かい対応と家庭的環境に近い養護実現に向け、施設を小規模化したり、里親を拡充したりする都道府県の計画もスタートした。
だが、障害児施設はこうした取り組みの枠外だ。今回のアンケートには、虐待を受けた入所者がいる施設の6割以上が、虐待に対するケアについて「特段の対応をしていない」と答えた。手厚いケアが必要な子どもたちに支援が届いていないのは明らかだ。国は一刻も早く障害児施設を対象に虐待に関する調査を実施し、必要な支援に乗り出すべきだ。【野倉恵】