毎日新聞 2023/1/13 東京夕刊 有料記事 620文字
てんかんは脳の活動に必要な物質を運ぶたんぱく質の遺伝子変異が一因であることを突き止めたと、東京大とキング・アブドルアジズ大(サウジアラビア)の研究チームが発表した。成果は米科学誌ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(電子版)に掲載された。
てんかんの患者は、日本で約100万人、世界で約5000万人と推測されている。けがや薬の副作用、別の病気などが原因になることが知られているが、詳しい発症メカニズムはよく分かっていなかった。
チームはてんかんを発症した小児患者の遺伝子を解析。その結果、細胞内で物質の運び役として働く「分子モーター」と呼ばれるたんぱく質のうち、脳や神経などに多く存在する「KIF4」に遺伝子変異があることが分かった。
遺伝子操作で同じ変異を持つマウスを開発したところ、マウスに激しく体を動かすてんかん症状が表れた。脳組織や神経細胞を調べると、脳の機能を維持するのに重要なたんぱく質の働きが悪くなったり、神経細胞の形態が異常になったりするなど人の患者の脳でもみられる特徴が確認された。チームはKIF4の遺伝子変異がてんかんの原因の一つと結論づけた。
またチームは、遺伝子変異を持つマウスのてんかん症状を改善する物質も確認したという。研究を率いた東大の広川信隆特任研究員(分子細胞生物学)は「発症メカニズムの一端が分かり、改善につながる物質がみつかった今回の成果は新たな治療薬の開発に役立つのではないか」と話す。【田中泰義】