毎日新聞2024/3/23 東京朝刊有料記事1013文字
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東京の某私大で法学部生30人に「リクルート事件って聞いたことある人」と尋ねたら、挙手したのは5人。「内容も知っている人」と聞いたらゼロ。生まれる15年以上前のことだから当然か。
別の事件で、金丸信元自民党副総裁の事務所から東京地検特捜部が巨大な金庫を運び出すニュース映像を見せたら、教室中が息をのみ固まっている。「金丸」の名前を知っていた学生はゼロ。全員が最も若い有権者である。
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政治資金パーティー裏金事件は、捜査着手時「リクルート以来の大疑獄」という触れ込みだったが、刑事処分が出た後の風景はだいぶ違う。自民党が長年、広く組織的に腐っていたのに、起訴・略式起訴されたのはほぼ無名の3議員と派閥事務員や秘書だけ。
大物政治家たちは「キックバックは知っていても、政治資金収支報告書への不記載を共謀した証拠はない」という納得できない説明で軒並み不起訴。衆参両院の政治倫理審査会で、大物たちはあたかも「捜査当局から無罪のお墨付きを得た」かのように開き直った。何のための捜査か。
特捜が同じように全国から検事を集めて大捜査を行った河井夫妻(克行元法相と案里元参院議員)選挙違反事件。夫妻は地元県議ら100人に計2900万円を配った罪で有罪となったが、自民党本部からの1億5000万円は買収に使われなかったとして終わった。一方で強引な捜査手法には今も批判がある。
昨年9月、地元の中国新聞(本社・広島市)が特ダネを報じた。報道によると、検察当局は2020年1月に河井元法相の自宅を家宅捜索した際、当時の安倍晋三首相ら政権・与党幹部からの現金提供を疑わせるメモを発見、押収していたというのだ。
A4紙の上半分に「第3 7500万円」(引用注=党広島県第3選挙区支部・河井克行支部長か)、「第7 7500万円」(参院選挙区第7支部・河井案里支部長か)と入金の日付(党本部からの資金総額と合致)。下半分に「+(プラス)現金6700 総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていたという。参院選当時の菅義偉官房長官、二階俊博幹事長、甘利明選対委員長と読める。
同紙の取材に、菅、二階両氏は否定。甘利氏は「党の陣中見舞いを届けた」と答えたという。
いまだにリクルートやロッキードの伝説をかさに、特捜が政界を浄化するかのような幻想がある。後の成り行きを見れば、とんだ買いかぶりだろう。(専門編集委員)