毎日新聞2024/6/22 東京朝刊617文字
世界遺産の姫路城=兵庫県姫路市で2021年10月27日、本社ヘリから
世界遺産・姫路城の天守までの経路は迷路のように複雑なことで知られる。現存する21門のうち、「はノ門」をくぐると天守に背を向け、いったんUターンしないと「にノ門」に着けない。「ほノ門」の後は、道が二つに分かれている▲その姫路城への入城を巡る動きだ。城を管理する兵庫県姫路市は外国人観光客について、入場料の大幅値上げの検討を始めた。清元秀泰市長は「外国人30ドル、市民5ドル」との案にも言及した。現在の料金は18歳以上で1000円。外国人客は約3割を占める。料金30ドルの場合、円換算で4倍以上となる▲市が二重価格の理由として挙げるのは、オーバーツーリズム対策だ。大勢の観光客が木造建築に入ることで維持・修繕費がかさむという。清元市長は「海外では常識だ」と説明する。それでも4倍超となると反応はさまざまだ。市外から来る国内観光客の料金をどうするかも難題だろう▲外国人観光客といえば、割り増しどころか無料の施設も従来は珍しくなかった。奈良県立美術館は無料だった観覧料を4月に有料化した。訪日外国人客(インバウンド)が増え、優遇策も曲がり角を迎えている▲コロナ禍を経て、昨年の訪日外国人客は約2500万人にまで回復した。政府は2030年に6000万人という目標を掲げる。昨年の2倍を上回る▲国が観光立国へエンジンをふかす一方で、ひずみが生じている。地域との調和や文化財保護とどう両立させるか。容易には抜け出せぬ、オーバーツーリズムの迷路だ。